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泣き寝入りで諦める必要なし ネットへの書き込みは本当に「自由」なのか

edited by DB Online   2020/07/29 09:00

情報開示を求められる基準

 先に裁判の結果から申し上げてしまうと、裁判所は本件についてプロバイダに情報開示を命じる判決を出しました。しかし、そこにはやはり、基準というか裁判所がそう判断した理由があり、無条件にという訳ではなかったのです。では、本件について裁判所はどのような理由で情報開示を求めたのでしょうか。順にみていきたいと思います。

1.本件記事が原告らのことを指すと認められるか否か

 この裁判の争点の一つは、ネットへの書き込みが、この不動産投資会社を指すものであるかどうかという点でした。そもそも自分に対する書き込みでなければ情報開示の理由にならないという考え方のようで、被告であるプロバイダは、書き込みの内容からは必ずしも、原告である不動産投資会社あるいはその経営層のうち二人とは特定できないと反論していました。これについて裁判所は以下のように述べています。

 (裁判所の判断)

 本件記事は、「マンションコミュニティ」という掲示板の「不動産投資 Aってどうよ?」とのタイトルが付されたスレッド内に投稿されており、本件記事以前の投稿には原告Aの事業内容に沿った記載が存在することなどが認められる。また、本件記事には、「トップ二人」との記載があり、少なくともそのうち一人は代表取締役のことを指しているものと認められる。これらの事実に照らせば、本件記事の閲覧者において、本件記事が原告A及びその代表取締役である原告Bに関する記事であると容易に推知することが可能であり、本件記事の内容は原告らについて記載されたものであると認められる。

 判決文では伏せていますが、“不動産投資 A”というのは原告の社名です。世の中には同じ名前の会社もあるかもしれませんが、書き込みにある事業の内容等から総合的に判断すれば、これが原告を表す言葉であると認められます。まずは書き込みの対象が確かに、情報開示を求めるものであることが条件として示されました。

2.権利侵害の明白性の有無

 記事の内容が、自分の会社を指すものだとしても、そこになんらかの権利侵害があることがポイントとなります。この書き込みには、そうした権利侵害にあたる記述があったのでしょうか。

 (裁判所の判断)

 本件記事の記載内容のうち,「クリスマス会,やるとおもってるんですか。社員もお金もないんですよ。やる余裕なんてありません。(笑)」とある部分は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、原告が、社員もお金もなく、クリスマス会などのイベントをやる余裕すらないとの事実を摘示するものであり、原告が経営に窮しているとの印象を抱かせるものであるから,原告の社会的評価を低下させるというべきである。

 ここはネットに書き込みを行う人への注意喚起となるかもしれません。書き込みの対象となった相手の業態や営業スタイル等からみて、書き込みがその経営に影を落とす可能性があると、一般の通念から類推できるようであれば、やはり権利侵害になってしまいます。

 不動産投資という業態にとって、自社の経営の健全性を疑われるのは致命的ですし、社員にろくな給料を払わず、経営層だけが私腹を肥やすような会社はモラルを疑われますが、これも他人の財産を扱う資格を大いに疑われる事柄です。こうした重大事を論拠も示さずに書き込んでいたとしたら、これは経営と因果関係を持つ重要な点です。裁判所はこの点を重視しました。

3.記事が公益目的であるか

 いかに重大な書き込みであり、経営状態に影響を及ぼすものであったとしても、それが事実であれば、それは書き込まれた方の責任ということもできます。

 本当に経営が行き詰まり、社員にまともな給料を払えない状態であるなら、不動産投資を行おうとする一般市民や、この会社への就職を考える人が訴えることは、それなりに公益性があると言えますし、それであれば書き込みもあながち名誉を貶めたものであるともいえないかもしれません。この場合はどうだったでしょうか。

 (裁判所の判断)

 本件記事が匿名で投稿されていることや,具体的な根拠が示されていないことなどの事情を併せ考慮すれば,本件記事に公益目的があるとも考え難く,違法性阻却事由(※)の存在をうかがわせる事情は存在しない。

 ※違法性阻却事由:法律上違法とされる行為について、その違法性を否定する特別な事由。

 書き込みが匿名であること、具体的な根拠が示されていないことが、この書き込みには公益目的がなく権利侵害にあたるとされた大きな要因となりました。


著者プロフィール

  • 細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

    ITプロセスコンサルタント 東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員 1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より2012年まで日本アイ・ビー・エム株式会社にてシステム開発・運用の品質向上を中心にITベンダ及びITユーザ企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行なう。現在は、東京地方裁判所でIT開発に係わる法的紛争の解決を支援する傍ら、それらに関する著述も行なっている。 おもな著書に、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか? 49のトラブルから学ぶプロジェクト管理術』 日本実業出版社、『IT専門調停委員」が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則』。

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