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「契約の目的」をクリアにしないことで陥る落とし穴


結果的に、裁判所はどう判断したのか

 一見すると、明示的に書いてある開発目標ですが、そうした弱みもある中、裁判所はどのように判断したでしょうか。

裁判所の判断

(那覇地方裁判所 平成12年5月10日判決より)

 システム化の目標について (中略) 原告もこれを承知していたことが認められる。しかし、右の目標の中には、スキャナーを使用した紙情報の電子化、福岡・沖縄間のオンライン化、データ管理の一元化等、本件ソフトの開発には直接的には含まれていない事項もある上 (中略) (上記目標を記しているのは) 被告の会議におけるレジュメ文書にすぎず、本件契約書には本件ソフトが確保すべき内容について、特段の記載がないことに照らすと、被告主張のシステム化の目標は、あくまでも将来の開発目標であり、前記五点の目標を達成することが、本件契約の内容および契約の目的となっていたとは認められない

 結果はご覧の通りです。やはり目標が契約書に記されず、しかも本件契約で実現すべき事柄が不明確だったため、裁判所はこれを「契約の目的」ではなく、「将来の開発目標」と認識し、必ずしもベンダが達成しなくても良いことと判断しました。

契約書の記載を軽んじることなかれ

 有り体に申し上げるなら、私はこの判決が少し、原理原則に寄りすぎているのではないかと感じてはいます。契約書に明記していなくても、この開発の目標がなんであり、その中で本ソフトウェアに期待する部分がどこであるのかを、当事者は理解しており、そこに齟齬はなかったのではないかと想像できるからです。

 しかし、契約の原則に鑑みて考えるなら、裁判所がこのような判断を下すのも正論ではあります。契約書に記載があるかどうか、そして、その記載ぶりによって、結果が大きく変わってしまうのです。

 ソフトウェア開発の契約書では、その目的部分に、単にコスト削減とか、売上向上といった抽象度の高い表現が用いられることが多いようです。しかしそうしたことはこの際改めて、できる限り具体的・定量的かつその達成が後になって判断できるような書き方をすべきでしょうし、その中で、この契約では何をして、何をしないのかも、第三者が見てわかるようにしっかりと書くべきでしょう。

 「契約の目的」を単なる枕詞のように考えて書いていると、痛い目を見る日が来るかもしれません(了)。

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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