S/4 HANAへの移行をどのように決定するのか
本年2月にSAPは、統合基幹業務システム「SAP ERP」の標準保守期間を2025年から2年延長し、2027年までとすることを発表した。さらに、追加の保守費用を払うことで2030年まで延長することも発表している。とはいえ、保守期間切れによって生じるいわゆる「2025年問題」は、「2027年問題」として多くの担当者の頭を悩ませることに違いはないだろう。
ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門 ビジネス・アプリケーション バイス プレジデント アナリストを務める本好 宏次氏は、この保守期間の延長に関して2つの注意点を挙げている。
1つ目は、2025年までの保守期間を2027年ないしは2030年まで延長するためには、機能拡張パッケージである、エンハンスメントパッケージ 6.0以上が適用されていることが条件になるということ。2つ目は、SAP ERP 6.0発売から14年が経過しており、これを延長していくとERP製品として古いものになってしまうということだ。
「SAP ERPの後継製品として『S/4 HANA』を選択するというのは、既定路線となっている。そのため、いつ、どのように移行するかが命題となりつつある」(本好氏)
さらに、SAPユーザー企業を「戦略的な採用企業」「戦術的な採用企業」「採用予定のない企業」の3つに分けることができると本好氏は続ける。これは前者から、すぐにでもS/4 HANAへ乗り換える企業、じっくりと見定めながら移行を検討する企業、S/4 HANAへ移行しない企業のことを表している。この中でも、採用予定のない企業においては、サードパーティーによる保守を依頼する企業と他社ベンダーへ移行する企業に分けられるという。
本好氏は「移行を考える際には、自社がこの3つのカテゴリーのどこに分類されるのかを考えてほしい。大きな方針が決まらないうちに細かなオプションを検討しても、無駄になってしまう可能性がある」と指摘する。
では、自社の立ち位置を検討する際に、具体的にどのように判断していけばよいのか。まずは、トップダウンによってSAPが必要不可欠なパートナーであるかを見極める必要があるという。「SAPの戦略を理解し、経営陣やビジネス部門のトップで納得するまで検討する必要がある。たとえば、SAPが掲げているインテリジェントエンタープライズというものが、自社のニーズと一致するのか。ロードマップや機能開発と、どれだけ合致しているのかを議論していただきたい」と本好氏は述べる。
これは、デジタルトランスフォーメーション推進に向けたITシステム構築として、SAPのアドオンやカスタマイズを必要なものだけに絞ったり、アーキテクチャ設計を見直したりという棚卸や負の遺産を整理する千載一遇の機会でもあるという。
また、本好氏はボトムアップでもS/4 HANAのメリットを分析する必要性を説いた。そして「エンドユーザーを巻き込んだ検証を行いながらも、トップダウンの検証とすり合わせて合致させていくことが大切」と、トップダウンとボトムアップの両面から検討することの重要さを強調した。