これまで取り上げたテクノロジー活用による健康増進に関する取り組みは多岐にわたっていますが、ほとんどの取り組みに共通する点としてあげられるのが、国際連合が定める持続可能な開発目標(SDGs)のひとつである「すべての人に健康と福祉を」という目標達成に向かっているということです。SDGsの根幹にあるサステナビリティという概念は、トリプルボトムラインとよばれる、社会、経済、そして環境の全側面が持続可能な世界を目指すものです。前回まで取り上げていた健康的な生活を営むためのテクノロジー活用は社会の持続可能性向上につながる取り組みといえます。
今回は、社会的な持続可能性と経済的な持続可能性の両立に関連する、「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」という目標にテクノロジーがどう寄与しているのかを深掘りしていきます。
SDGsとは
今回のコラムの主題として取り上げる「ディーセント・ワークの推進とテクノロジーの関わり方」について論ずる前に、まずはSDGsについて整理していきます。
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに世界全体が持続的な未来へと向かうために達成を目指す17の憲章と169のターゲットで構成された国際的な目標です。SDGsは、世界中の政府や民間組織に関連するさまざまな社会的、経済的、環境的問題を対象としています。SDGsの達成目標は「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」という、よりよい社会を目指すものから、「気候変動に対する具体的な対策の策定」、「水産資源の保護」などの環境保護目標まで多岐にわたっています。
SDGsは先進国を中心に注目度が高まっており、各国政府は実行に向けた方向性を示す一方、多くの企業が自社に関連する目標の達成に向けた取り組みをアピールしています。
ディーセント・ワークへのAIの関わり方―自動化のもたらすもの
「ディーセント・ワークの推進」はSDGsの第8憲章に含まれるターゲットのひとつとして設定されています。ディーセント・ワークとは、「権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会保護が供与された生産的な仕事」を意味します。経済や社会の観点から人々の生活における仕事と雇用の役割を考えると、経済発展を可能にするものとしてSDGsの1つで仕事を扱っているのを見るのは驚くべきことはではありません。
第8憲章をより具体的に説明すると、労働者が「安全で安心な労働環境」にアクセスでき、不安定な雇用が減少し、すべての人の持続可能な経済成長、雇用、ディーセント・ワークの促進」を目指すということになります 。第8憲章の中には、「一人あたりの経済成長率の持続」や「若年雇用のための世界的戦略および国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施」、「強制労働の根絶」といった具体的なターゲットが12種類設定されており、ディーセント・ワークもそのひとつとして含まれているというわけです。
日本では、ディーセント・ワークの実現に向け、働き方改革のような生産性向上と充足感の向上に向けた改革が進められていますが、仕事の質の向上という課題はいまだに大きな変化がないまま存在しています。仕事の質の向上に取り組む場合、長く続いている会社であればあるほど、業務における雑多なレギュレーションが多く存在しており、社内外のおおきな変革の波やプレッシャーがない限り、その壁を壊すことは非常に時間とエネルギーが必要です。
そこで切り札として考えられているのがAIを始めとするテクノロジーによる既存業務の自動化です。AIは、ビジネス基盤の改革に積極的に用いられるようになってきており、世界中で人々の働き方を変えています。今日のビジネスの世界で活用が加速するAI関連技術として、RPAや機械学習を用いた画像認識、チャットボットなどが挙げられます。以下より、それらのAIがどのように働き方に作用するか説明します。