デジタル前提の社会へと前進
ビービットの執行役員CCO 兼 東アジア営業責任者を務めている藤井氏は、『アフターデジタル - オフラインのない時代に生き残る』(日経BP、尾原和啓共著)の主著者として社外でも積極的な活動を行うなど、多くの人がご存知のことだろう。昨年7月には『アフターデジタル2 UXと自由』(日経BP)という続編も刊行しており、「UX」と「OMO」(Online Merges with Offline)を軸にデジタルが浸透しきった「アフターデジタル」社会における企業の在り方などが語られており、多くの反響を呼んでいる。
また、ここ1年間で世界を取り巻く状況は新型コロナウイルス感染症の影響で大きく変容しており、日本でもデジタル化が加速するなどの変化もみられた。藤井氏は、「日本においてオンライン化やデジタル化が進まないという話を書いていましたが、ヤフーとLINEの統合やフードデリバリー業界への新たなプレーヤーの参入など、オンラインを前提とした社会に向けて前進していると感じています。また、ありがたいと思っているのは、行政でもUXなどの体験価値を重要視している動きが見受けられることです」と述べる。
こうしたUXへの認識をあらためる背景には当然ながら、ある種の痛みを経験して学んだ部分もあるという。とはいえ、まだまだ多くの日本企業は理解に至っておらず、模索している状態だと藤井氏は指摘した。
一方でコロナ禍においても台湾をはじめとした諸外国では、データに基づいた管理などデジタル技術を活用した迅速な対応がとられるなど日本でも注目を集めている。藤井氏は、コロナ対応はもちろん、エンターテインメント業界における進展にも着目すべき点があるという。
たとえば、オンラインゲーム「フォートナイト(Fortnite)」内で人気ラッパーのトラヴィス・スコット(Travis Scott)氏がバーチャルライブを開催するなど、ゲームにおけるメタヴァース(Metaverse)化が注目を集めた。また、韓国の動画配信サービス「V LIVE」では、ライブの背景画面にファンを映すなど、リアル以上の感動体験やエンゲージメントを築いている事例も多く出てきている。
もちろん、日本でも人気バンドのサザンオールスターズが無観客配信ライブを開催し、約50万人が視聴するなど話題を呼んだ例もあるが、そこには大きな考え方の違いがあるという。藤井氏は、「ここには“デジタルでないとできない”という視点の違いが存在しています。オンラインであれば距離や空間の制限がまったくないため、人のサイズを巨大化させたり、飛ばしたりとなんでもできるはずです。つまり、思考の出発点がデジタルなのかリアルなのかという点で異なるのです」と主張した。
また、このような視点はアフターデジタルの社会においても重要になってくると説明する。日本におけるUXでは、「UI/UX」のようにデザインやユーザビリティという観点だけで扱われることが多く、経営層が自分事として捉えていないために、UXを基盤に置いたミッションバリューの定義や価値観などの構築が行われていない。デジタルとリアルを分けるのではなく、すべてを含めたうえで具現化するにはどうしたらよいのかを考えると、アプリや店舗を含め新たな顧客接点が生まれ、そこがUIになるのだという。
「どうしてもUIなどを優先して見てしまいがちですが、本来は上位のレイヤーにあたる部分を先に定義する必要があります。その際に、『アフターデジタル』のようなデジタル視点をもって考えられるようになると、日本におけるUXも変わっていくと思っています」(藤井氏)