ITだとHOWに目が行きがち、しかし経営はWHATを求める
押久保:私は、経営や事業とITは両輪だと考えているのですが、日本企業はIT音痴とも言われて、経営アジェンダにITが入っていないことが多いと聞きます。それが昨今のデジタル化の遅れにもつながっていると感じるのですが、古川さんは現状についてはどうお考えでしょうか?
古川氏:これまで、ITと経営は別言語で、それを通訳できる人が少なかったことも起因し、ITのことはIT部門に任されるケースが多く見受けられました。ただここ4年~5年、CIOクラスの方々が転職をして流動化しはじめて、こうしたことにも変化が起きてきた。日本の経済社会にとってプラスだと感じています。
押久保:通訳をする担当は、経営を理解しなくてはいけませんよね。CIOに必要なものはなんでしょうか?
古川氏:日本のCIOの多くはIT部門の組織代表や長がなるものでした。しかし、経営や事業にITを使わなくてはならない今、経営層と話ができるCIOが求められます。ITを知った上で、数字と経営の話ができる人ですね。IT部門の長がCIOになったりすると、HOWをメインで伝えてしまうケースが多々あります。「このサービスを使います」「この製品を購入します」など。
しかし、経営層はプロセスやツール(HOW)よりも、なぜこれをやり(WHY)、その結果何が得られるのか(WHAT)を知りたいのです。今のCIOは、経営層が求めるWHATの部分を語ることが求められます。達成することで、何ができるのか、得られるのか、どう変わるのか。経営目線で世界観を語り、その世界観は会社の事業としっかりオーバーラップしている。これが一番CIOに求められていることではないでしょうか。
成塚氏:僕らベンダーもけっこうHOWを語るので、耳が痛いところです。
古川氏:そこは商品ですからね、仕方ないでしょう(笑)。
グループ各社の成熟度レベルを見極め、達成できる目標をセットする
成塚氏:先ほどお話のなかで、現場を見ながらと古川さんがおっしゃっていたのが、古川さんらしいなと感じました。この鼎談が行われる前に、雑談のなかで1on1を35人されたとおっしゃっていた。これもまた、距離感をつかむために人を知るということなのでしょうが、ホールディングスのCIOとしてどのような距離感、また個社との連携を考えているのでしょうか。
古川氏:本来的には全体最適の効率化を目指すべきだと思いますが、グループになるとパーソルもそうですが、バラエティに富み、力もあると、1つの目標をセットするだけではやっていけないと思います。個社ごとに、この会社はある程度任せても大丈夫。この会社はこの部分をホールディングスとしてサポートしないといけないといった見極めが必要になります。トップダウンで私たちはこう変わりましょう! と目標を言うだけでは無理ですね。言ってそれが実現するなら楽でいいですが、現実はそうではない。
グループ内の会社ごとに「成熟度レベル」があり、たとえばそのレンジが1〜5あったとします。そのレベルをこちらでしっかり定義すれば、それぞれのグループ会社側も現状を把握しやすく、次のレベルへあげるための目標を立てやすいでしょう。
成塚氏:これは、ホールディングスならではの発想ですよね。事業会社のCIOだと、自社の中のレベルをあげることは考えられますが、全体を俯瞰して最適化していくというのは難しい。
古川氏:そういう意味で、事業会社のCIOと比べてホールディングスのCIOは我慢が求められますね。直接手を出せない領域も多いので、調整などにも時間がかかります。こうすればこうなるという答えは見えていても、それを各社でやってもらう必要がありますから。また、グループを統制していく上で、機会の公平性と透明性も求められます。CIOとしてグループ全体を把握し、理解した上で発言をしていかなければ現場は混乱するばかりです。