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暗号化の切り札、コンフィデンシャル・コンピューティングの可能性を探る

社会全体のDXに向けた切り札、コンフィデンシャル・コンピューティングの可能性を探る

【第1回】なぜコンフィデンシャル・コンピューティングは注目されるのか

 前回の連載『【ブロックチェーン超入門】導入のための第一歩』では、国内外における様々なブロックチェーンの取り組み事例を踏まえながら、ブロックチェーンがもたらす価値について考察しました。本連載の前半では、LayerXが経済活動のデジタル化の取り組みを推進する中で直面した新たな課題と、その解決策としての「コンフィデンシャル・コンピューティング(機密コンピューティング)」について、技術的な概要や昨今注目を集める背景などをご紹介します。さらに連載の後半では、セキュリティ分野の技術革新に留まらない、コンフィデンシャル・コンピューティングの可能性について紐解いていきます。

社会全体のDXと実現に向けた課題

  昨今、パンデミックによるリモートワークへの移行や、人口減少による人手不足などの社会課題に対する解決策として、デジタル・トランスフォーメーション (DX) への取り組みが急速に進んでいます。

 そもそもデジタル・トランスフォーメーション (DX) とは何でしょうか。

 経済産業省によればデジタル・トランスフォーメーション (DX)とは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」[※1]と定義されています。

 確かにDXは企業にとって新たなビジネスチャンスを生み出したり、競争優位性を確立したりする手段としての可能性を秘めています。

 しかし別の角度から見れば、DXとはデジタル技術を活用して人が担う必要のない業務やルーティンワークを効率化・自動化することで、人口減少や高齢化といった社会課題を解決。また、テレワークなど多彩な働き方を可能にしたり、多様な人の社会参画を実現したりと、より豊かに生活していくための手段であると捉えることができます

 このように定義した場合、DXはビジネスモデルの変革や競争上の優位性の確立といった、個社レベルのデジタル化だけでは実現できません。

 なぜなら多くの企業において、日々の業務は様々な外部のステークホルダーとの関係性に依存しており、人が担う必要のない業務やルーティンワークをすべて効率化・自動化するためには、このような外部企業や顧客などの間における取引や業務フローすらも最適化、自動化し、社会全体のDXを実現する必要があるからです

 ではこの社会全体のDXは具体的にどのように実現されるのでしょうか。LayerXは、社会全体のDXに必要なステップとして、4つのフェーズを定義しています。

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 Lv.1~3では業務における部分的なデジタル化から始まり、業務全体のデジタル化、業務の高度化といった、個社に閉じたデジタル化を通じて業務やプロセスの自動化、効率化が実現されます。

 現状多くの日本企業では、Lv.1のデジタル化がSaaSの導入等によって推進されている状況ですが、その先にはデジタルを前提とした業務プロセスの再構築や、高度な処理の自動化といったLv.2、Lv.3のフェーズが存在します。

 しかし、これだけでは社会全体のDXは実現しません。なぜなら前述した通り多くの企業において、業務プロセスには他社や顧客など、様々な外部のステークホルダーが関係しており、そのような箇所がデジタル化されない限り、非効率な業務が残ることになるからです。

 このような背景から、Lv.4における企業間のコラボレーションという最後のフェーズが定義されます。このフェーズにおいて、各企業に閉じていたシステムとシステムが連携され、企業間の取引や業務フローが完全にデジタル化されることで社会全体のDXが実現されるのです。

 ブロックチェーンが社会にもたらすインパクトを一言で表すのであれば、まさにこの複数のステークホルダー間の取引や業務プロセスを効率化・自動化させることで、社会全体のDXを実現することにあります(なぜブロックチェーンがこのようなインパクトを実現できるのか、については前回の連載「【ブロックチェーン超入門】導入のための第一歩」の第3回「デジタル化に向けて企業はブロックチェーンとどう向き合うべきか」でご紹介していますので、興味を持たれた方はご参照ください)。

 ブロックチェーンが社会全体のDXに向けたソリューションとして期待される一方、LayerXが様々な企業や行政と取り組みを進める中で、ブロックチェーンでは解決することのできない、新たな課題に直面しました。

 そもそもLv. 4のフェーズにおいてブロックチェーンがコア技術として期待されている理由は、改竄耐性やデータの信頼性の担保といったブロックチェーンの特徴が、複数のステークホルダーを跨ぐシステムやデータ連携を実現するために技術要件として必要とされたためでした。

 しかし企業や個人など複数のステークホルダーが、連携された一つのシステム上に参加し、共有されるデータを利活用していく上で、“それぞれが共有する機密情報やプライバシー情報が他のステークホルダーから丸見えになってしまう”という新たな課題が発生したのです。

 このような課題の解決策として、システムを連携する際に改竄耐性やデータの信頼性に加えて、機密情報やプライバシー情報を秘匿したまま利活用するための技術が必要となりました。

  必要とされる技術要件を踏まえ、LayerXでは様々な技術の研究や実験を実施し、秘匿性を担保する各技術の特性や性能の比較を実施しました。その結果、秘匿性の性能に加え、実際のシステムで必要とされる柔軟性や処理速度を、相対的に高いレベルで満たす技術として注目したのが、今回ご紹介する「コンフィデンシャル・コンピューティング」でした。

出典:Confidential Computing Consortium 「A Technical Analysis of Confidential Computing v1.1」
出典:Confidential Computing Consortium
A Technical Analysis of Confidential Computing v1.1』(PDF)から筆者作成
[画像クリックで拡大]

  LayerXの研究開発部門であるLayerX Labsでは、その柔軟性や実用性の高さから、現在ではブロックチェーンの導入有無に関わらず、より幅広いケースでDXを推進する技術としてコンフィデンシャル・コンピューティングに注目し、これを組み込んだアプリケーションを開発するためのモジュール群である「Anonify」の実用化を推進しています。

 [※1] 出典:経済産業省、『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』(PDF)

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コンフィデンシャル・コンピューティングとは

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この記事の著者

野畑 壱成(LayerX)(ノハタ イッセイ)

LayerX Labs アナリスト 慶應義塾大学経済学部卒。LayerXの研究開発部門であるLayerX Labsで、 秘匿化技術Anonifyの事業開発及び実証実験の推進をリード。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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