DXの取り組みの1つとして、物売りのビジネスからサービス型に変わろうとする企業は多い。そしてサービス化という変革において、重要なキーワードとなっているのがサブスクリプションだ。製品などの売り切りにより一気に売り上げを計上するのではなく、サービス利用料を月ごとなどで継続的に売り上げる。
サブスクリプション型では、ユーザーが長くサービスを利用することで、毎月の売り上げが徐々に積み上がっていく。売り切り型のように期末のマーケティングキャンペーンなどで製品を一気に販売することで、短期で大きな売り上げ目標を達成することはできないかもしれない。サブスクリプション型では、ユーザーが離脱せずにサービスを使い続けてくれれば安定した売り上げが見込め、将来的な売り上げ予測も立て安い。一方でサービスに満足してもらえずユーザーが離脱するとビジネスの拡大は期待できない。高い顧客満足度を継続的に維持することが、サブスクリプション型ではビジネスにおける最大の課題となる。
アドビはサブスクリプション型に移行して最も成功している企業
IT企業でいち早く製品を売り切り型からサブスクリプション型に移行し、成功を収めているのがアドビだ。同社は以前、PhotoshopやIllustratorを単体で、あるいはAdobe Creative Suiteを永続ライセンスの製品として販売し売り上げをあげてきた。2011年にCreative Cloudを発表し、現状ではAdobe Creative Cloud、Adobe Document Cloud、Adobe Experience Cloudというクラウド型のサブスクリプションサービスに移行している。「永続型ライセンスからサブスクリプション型に移行し、ここ4、5年はサブスクリプションの新規顧客の獲得に全力を注いできました」と言うのは、2021年4月に新たにアドビ日本法人の代表取締役社長に就任した神谷知信氏だ。
神谷氏は、アドビのデジタルメディア事業統括本部 バイスプレジデントとして、Creative Cloud、Document Cloudからなるデジタルメディア事業全体を統括してきた人物だ。アドビには2014年10月入社し、アドビ自身のサブスクリプション化というDXを、日本法人でリードしてきた存在だ。神谷氏のこれまでのアドビにおける活動は、サブスクリプションの顧客ベースを増やすことに注力したもので、結果的に「顧客ベースのサイズはかなり大きくなりました。これからのビジネスの中心は、顧客にいかにサブスクリプションの更新をしてもらうかへ、シフトしています」と言う。そのため今後は、購入後の顧客とのエンゲージメントをより深いものにするための活動に力を入れることになる。
アドビには幅広い製品があり、顧客の属性も多岐にわたる。さまざまな顧客に対し、個々のニーズにマッチする情報、価値が提供できるか。ビジネス規模が拡大し顧客ベースが増えれば、個々のアドビの顧客に対し人手でより良い対応するのは難しい。アドビ自身がデータを活用した自動化により、顧客とのエンゲージメントをより良いものにできるかが求められると神谷氏は言う。
そしてこの顧客とのエンゲージメントをより深いものにするアプローチは、アドビだけに求められているものではない。全ての企業に今、求められているものでもある。「私がお会いする多くの企業が、顧客とのデジタルチャネルは確立しても、そこから顧客のロイヤリティを上げるためにどうやってデジタルツールを活用するかに悩まれています。多くの企業の課題が、ここにシフトしています」と言う。