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ERPのカスタマイズは悪なのか? クラウド移行の遅れの理由について

edited by DB Online   2021/10/01 12:00

 IT市場でよく使われる「壊れていないものは、使い続ける」、その風潮は日本では強いと思います。ここ数年は、どっぷりとERPの世界に私は入り込んでおり、多くの見込み顧客と話をする機会があります。クラウドERPなどの新しいアプリケーションに移行できない理由として多いのは、既存のERPでヘビーなカスタマイズを行っているので、とても新しいアプリケーションへ移行できないというものです。企業によっては、時間の経過ともにそのカスタマイズした理由が不明になり、それを紐解いていくだけでも、膨大な時間が掛かるというお客様の声も聞きます。移行には、数十億から場合によっては数百億という膨大なコストがかかります。そのコストをかけて、既存のERPを移行しても、ROIが見込めない場合が多いのです。では、どうすれば良いのでしょうか?

カスタマイズ好きは日本だけではない

 カスタマイズは悪か? という質問について、私なら、「企業競争力を生まないようなバックエンドの業務でのヘビーなカスタマイズは悪である」と答えると思います。日本でERPの導入は会計や販売管理、購買管理・在庫管理、人事給与などのバックエンド業務での利用が多いからです。差別化できる競争力を発揮するようなビジネスでの、適度なカスタイズは必要だと思います。

 エンタープライズ領域において、国内ERP市場ではSAPが高いシェアをもちます。ただ、2020年12月9日に開催された日経BP主催の一般セミナーにおけるSAP社の講演資料を見ると、JSUG(JAPAN SAP Users’​ Group)の調査の結果、使用中のERP製品については「ECCまたはR/3が77%」で、移行の検討については、「56%が移行検討中、15%が移行予定なし」となっています。ユーザーグループですらこの状況で、まだまだ古いバージョンのSAP ERPを使っている企業が多いのです。米国では、少し遡りますが2019年のASUG(Americas’​ SAP Users’​ Group)の調査では、「56%が検討中、12%が予定なし」となっています。大差ない状況ですね。移行するビジネスケースや正当性が見つからない、会社の優先事項ではない、S/4 HANAが成熟していないというのが、その理由だそうです。日本企業はカスタマイズが好きとよく言われますが、実は米国企業もかなりカスタマイズすると聞きます。自社にエンジニアがいますから、必要に応じてちょちょっとやっちゃうかもしれません。

 このERP市場では、日本のITの競争力に関わる大きな問題があります。先行してSAP S/4 HANAに移行する一部の企業向けに、カスタマイズされたERPの巨大な移行プロジェクトが展開されているのです。この市場は美味しく、大手SIが多くのIT技術者を投入しています(当然、儲かる)。これによって、市場でのエンジニア不足が、加速しているのです。なお、米国では、ベンダーをコンサルティングにいれつつも、自社のリソースで移行します。しかし、ERPを移行しても、デジタルのトランザクション基盤でしかなく、DXを推進するには、それ以上の取り組みが必要になります。新機能も実装するのでしょうが、移行を中心としてプロジェクトに、大量のリソースが動いているのです。それじゃ、日本は強くならないわけです。とほほ。SIを使ったカスタマイズが生んだ大きな弊害です。

ERPを移行できない理由

 移行しないERPは、レガシーアプリケーションになるかという疑問が浮かぶと思います。微妙ですね。有名な「DXレポート」によると、レガシーシステム問題の本質は「自社システムの中身のブラックボックス化」だと指摘しています。

 レガシーシステム問題の本質は「自社システムの中身がブラックボックスになってしまったこと」にある。レガシー化とは「ユーザ企業において、自社システムの中身が不可視になり、自分の手で修正できない状況に陥ったこと」と言うことができる。

 レガシー化は技術の側面のみならず、「マネジメント」の側面が大きな問題と考えるべきである。古い技術を使っているシステムだから必ずレガシー問題が発生するわけではない。適切なメンテナンスを行うITシステムマネジメントを行っている場合は、ブラックボックス化はしにくい。ただし、システム全体が一体化した古いアーキテクチャや開発技術はメン テナンスによって肥大化、複雑化する傾向にあり、時間の経過と共にレガシー問題を発生し やすいのは事実である(開発から時間が経っているためレガシー化の確率が上がる)。

 メンテナンスを繰り返し、プログラムが複雑化した場合でも必ずレガシー問題が発生するわけでもない。しかしながら、開発から時間が経っている場合、レガシー問題の発生確率は上がる。逆に、最新のクラウド技術を適用していても、時間の経過と共にレガシー問題が発生し得る。(経済産業省:『DXレポート』(平成30年9月7日)より


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著者プロフィール

  • 北川裕康(キタガワヒロヤス)

    クラウドERPベンダーのインフォア(Infor)のマーケティング本部長。33年以上にわたりB2BのITビジネスにかかわり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workdayなどのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションを担当。その以前は富士通とDECでソフトウェア技術者。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、日々格闘中。

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