カスタマイズ好きは日本だけではない
カスタマイズは悪か? という質問について、私なら、「企業競争力を生まないようなバックエンドの業務でのヘビーなカスタマイズは悪である」と答えると思います。日本でERPの導入は会計や販売管理、購買管理・在庫管理、人事給与などのバックエンド業務での利用が多いからです。差別化できる競争力を発揮するようなビジネスでの、適度なカスタイズは必要だと思います。
エンタープライズ領域において、国内ERP市場ではSAPが高いシェアをもちます。ただ、2020年12月9日に開催された日経BP主催の一般セミナーにおけるSAP社の講演資料を見ると、JSUG(JAPAN SAP Users’ Group)の調査の結果、使用中のERP製品については「ECCまたはR/3が77%」で、移行の検討については、「56%が移行検討中、15%が移行予定なし」となっています。ユーザーグループですらこの状況で、まだまだ古いバージョンのSAP ERPを使っている企業が多いのです。米国では、少し遡りますが2019年のASUG(Americas’ SAP Users’ Group)の調査では、「56%が検討中、12%が予定なし」となっています。大差ない状況ですね。移行するビジネスケースや正当性が見つからない、会社の優先事項ではない、S/4 HANAが成熟していないというのが、その理由だそうです。日本企業はカスタマイズが好きとよく言われますが、実は米国企業もかなりカスタマイズすると聞きます。自社にエンジニアがいますから、必要に応じてちょちょっとやっちゃうかもしれません。
このERP市場では、日本のITの競争力に関わる大きな問題があります。先行してSAP S/4 HANAに移行する一部の企業向けに、カスタマイズされたERPの巨大な移行プロジェクトが展開されているのです。この市場は美味しく、大手SIが多くのIT技術者を投入しています(当然、儲かる)。これによって、市場でのエンジニア不足が、加速しているのです。なお、米国では、ベンダーをコンサルティングにいれつつも、自社のリソースで移行します。しかし、ERPを移行しても、デジタルのトランザクション基盤でしかなく、DXを推進するには、それ以上の取り組みが必要になります。新機能も実装するのでしょうが、移行を中心としてプロジェクトに、大量のリソースが動いているのです。それじゃ、日本は強くならないわけです。とほほ。SIを使ったカスタマイズが生んだ大きな弊害です。
ERPを移行できない理由
移行しないERPは、レガシーアプリケーションになるかという疑問が浮かぶと思います。微妙ですね。有名な「DXレポート」によると、レガシーシステム問題の本質は「自社システムの中身のブラックボックス化」だと指摘しています。
レガシーシステム問題の本質は「自社システムの中身がブラックボックスになってしまったこと」にある。レガシー化とは「ユーザ企業において、自社システムの中身が不可視になり、自分の手で修正できない状況に陥ったこと」と言うことができる。
レガシー化は技術の側面のみならず、「マネジメント」の側面が大きな問題と考えるべきである。古い技術を使っているシステムだから必ずレガシー問題が発生するわけではない。適切なメンテナンスを行うITシステムマネジメントを行っている場合は、ブラックボックス化はしにくい。ただし、システム全体が一体化した古いアーキテクチャや開発技術はメン テナンスによって肥大化、複雑化する傾向にあり、時間の経過と共にレガシー問題を発生し やすいのは事実である(開発から時間が経っているためレガシー化の確率が上がる)。
メンテナンスを繰り返し、プログラムが複雑化した場合でも必ずレガシー問題が発生するわけでもない。しかしながら、開発から時間が経っている場合、レガシー問題の発生確率は上がる。逆に、最新のクラウド技術を適用していても、時間の経過と共にレガシー問題が発生し得る。(経済産業省:『DXレポート』(平成30年9月7日)より