早急な対策が求められるサプライチェーンの混乱
今回で22回目となる「KPMGグローバル自動車業界調査2021(以降、GAES 2021)」は、全世界31カ国、1,118人のエグゼクティブを対象に2021年8月に実施したものである。
まず、世界全体の経済概況を把握するため、今後5年間における自動車業界の成長見通しを尋ねている。説明で登壇した犬飼仁氏が最初に紹介したのが、回答者の53%が高い収益性を持って成長するという楽観的な見解を抱いていることであった。中でも米国企業と中国企業は、内需回復を背景に今後の成長に自信を示す傾向が見られた。また、コロナ後に確実に到来する破壊的な市場変化に適応するための準備ができているかについても、「かなり備えができている」「ある程度備えができている」とする回答が全体の7割を占める結果となったという。
とは言え、今後の事業運営に関しては、短期的にも長期的にもかなりの懸念事項を抱える。米国では、経済活動再開を追い風に需要が急増したものの、部品不足の影響で供給が追いつかず、新車、中古車共に価格上昇の原因となった。直近のサプライチェーンの混乱は、重要部品に使われるリチウムや半導体だけでなく、鉄鋼、アルミニウム、石油と広範な資材調達に及んでいる。加えて、米国のように労働力不足に直面する地域もあり、パンデミックで発生した混乱、自然災害、そして現在も進行中の地政学的リスクの高まりも相まって、問題が複雑化するばかりだ。安定的な供給体制の再構築が大きな課題としてのしかかる。
調査によれば、エグゼクティブの約半数が、最近の商品価格の変動が今後1年間のビジネスに与える影響について、「とても(11%)」あるいは「非常に(35%)」懸念していると回答している。調査時期がインフレの顕在化し始めた時期ではないこともあり、「ある程度」懸念しているとする回答が33%を占めていたことは考慮の必要がある。だが、2022年に入り、問題が複雑化の一途を辿る中、正常化に向けてエグゼクティブが注力の意向を示しているのが「サプライヤー/ジョイントベンチャーへの直接投資」「原材料の直接調達」である(図1)。この結果を受け、犬飼氏は「今までのサプライチェーンや業界構造を変える動きを検討していることが見てとれる」と分析した。また、この結果を地域別に見た時、日本のエグゼクティブはグローバルと比べて若干保守的な傾向が見られたという。