社長や常務とのすれ違い
企業の情報システムが当初思い描いていた姿にならない根本的な原因の多くは、社長や常務とのコミュニケーション不足。情報システムで企業をどうしたいのか、合意しきれていないケースだ。ある時点で合意が取れていたとしても、朝令暮改とまではいかなくても1年後にまったく異なることを言いだすことは、当たり前にある。
私が多くの企業で直面するのは、「企業に眠っているデータを有効活用することで、DXを推進する」といった言葉だ。もう20年以上前から聞く言葉で、最近ではこれに「AI」というキーワードが付いていることも多い。
この言葉をそのまま現場に落とすと、当然ながら現場で混乱が生じる。「顧客情報を分析することで、どんな付加価値が生まれるのか?」という問いに対して、堂々巡りが繰り返され、なかなか先に進めない。ほとんどの企業では、業務で取得している顧客データ(属性情報と取引情報)をいくらひっくり返してみても新しいものは生まれないからだ。AIも同様で、原因と結果が数万ケース以上データとして揃っていないと作れない。
たとえば、前述した課題に対してダッシュボードを作り、マネジメント層が業績をタイムリーに見ることができるものを開発することになったとしよう。このとき、社長がそれを望んでいたのであれば、最初からそのように指示すれば無駄な待機時間は生まれなかっただろう。
また、ダッシュボードを作ったとしても、ほとんどの場合すぐに誰も使わなくなる。なぜなら、業務のデータは季節変動を外せば月単位で変化することはほとんどなく、定期的に見たところで面白みがないからだ。PDCAを回せるようにするためには、個々の社員のKPIが設定され、それを組織単位で集計した結果がマネジメントのダッシュボードに反映されていないといけない。
どの社員がどのように貢献しているのか、日々の業績に対するアクションが見れるようになると、それを見た課長が他の課員にも共有し、課全体の業績がアップする。そこで、はじめてマネジメントのダッシュボードで見て取れるようになる。そうした仕組みを作るためには、まず担当者レベルのKPIからの積み上げをどうするのかを設計するところから始めなくてはいけない。そして、これは経営企画部門の仕事であってシステム部門ではない。
こうした結果、いつまでたっても社長の思い描いている姿にならないのだから社長も満足せず、CIOの評価は悪くなるだろう。「企業に眠っているデータ」にはどんな情報があって、そこから「何が生まれるのか」「どうしたいのか」「技術的に何ができるのか」まで、社長と徹底的にディスカッションをして具体化した上で現場に落とさなければ、「漠然としたイメージ」を思い描く社長をイラつかせるだけだ。
「何ができて、何ができないのか」を明確にした上で目指すゴールを描かないと、満足のいくものはできないし、描いたゴールについてのディスカッションをこまめに再確認しておかないと、1年後には違うことを言いだして現場の社員たちががっかりし、自信を無くすことにもなる。