「顧客体験」を提唱するアドビのソリューション体系
アドビのイベントというと、企業のマーケティング担当者向けで、IT部門にはやや縁遠いと思われるかもしれない。しかし、今日の企業のデジタルビジネス、とくにDXを推進する企業のIT部門担当者にとって、「顧客データ」の管理や活用は必須のものであり、そのためのテクノロジーの理解は重要だといえる。そのため本記事では、「Adobe Summit 2022」の内容をお届けしていきたい。
アドビがここ数年発信するメッセージは、一貫している。それは、企業が提供するものは、製品・サービスを超えた「体験価値」であり、「顧客体験」を提供することが今後のビジネスの目的となるというもの。この考えにもとづいたアドビのBtoBのクラウド事業が「Adobe Experience Cloud」であり、その全体像を紹介する年次イベントが「Adobe Summit」である。
アドビはここ数年、自社製品の連携・統合や企業の買収を通じて、顧客体験重視のソリューションを築いてきた。たとえば、2018年のマルケト、2021年のMagentoの買収を通じ、BtoBのクラウドソリューションの体系を築いてきた。
「Adobe Experience Cloud」は、「Adobe Experience Manager」(CMS)、「Adobe Commerce」(EC)、「Adobe Analytics」(データ分析)、「Adobe Marketo Engage」(マーケティング)などの製品・サービス群から構成され、その包括的なプラットフォームが「Adobe Experience Platform」(以下、AEP)となる。
今年の特徴は、そのAEPの連携が強化されたこと。そしてもうひとつは、最近のプライバシー重視の動向に対応した顧客データ管理ツール「Real-time Customer Data Platform(CDP)」(以下、リアルタイムCDP)が加わったことだ。今回のAdobe Summit 2022では、このCDP関連のセッションが数多くフィーチャーされている。そのうちのいくつかのポイントを紹介する。
DMPからCDPへ:何が変わったというのか?
CDP(データ管理プラットフォーム)とは、さまざまなデータソースに散在しサイロ化していた顧客データを集約し、単一のプロファイルにまとめるものだ。顧客データの集約や整理・統合は、長年語られてきたテーマだ。これまでも、データの統合という機能を打ち出す製品としては、MDM(マスターデータ管理)、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)などがあった。特に顧客データを統合するDMPとの違いは何か。「DMP vs. CDP: How and Why to Evolve」のセッションではその詳細が解説されている。
背景にあるのは、世界的なプライバシーや個人情報保護の動向だ。GDPR(General Data Protection Regulation)やCCPA(California Consumer Privacy Act)によって、企業は従来のように、顧客やユーザーのデータを自在に活用できなくなっている。国による法的な規制だけでなく、AppleやGoogleのようにサードパーティデータの収集を技術的に規制する動きも始まっている。
これまでのDMP製品は、CookieとデバイスIDを重視してきた。DMPは本来、主としてCookieベースのデータの収集、統合、活用を管理するためのものだからだ。Cookieによって紐付けられた行動データやサードパーティCookieによって匿名化されたプロファイルを構築し、それに基づいて構築された顧客データを、ターゲティング広告やオンラインマーケティングで活用してきた。ところが、近年のプライバシー重視の動向によって、Cookieの利用に関してはユーザーの同意が必要になった。
「CookieやデバイスID、そしてサードパーティデータは、本質的に消滅してしまい、プロファイルやオーディエンスを構築することができなくなりました」とアドビのリアルタイムCDPのマーケティング担当のニーナ・カルーソ氏は言う。
CDPは、企業が自社で収集したファーストパーティデータなどの個人情報を含む「既知のデータ」と「未知のデータ」を、プライバシーとIDを厳密に管理しながら動的なプロファイルを構築し、活用するためのものだ。
アドビのリアルタイムCDPは、BtoCの消費者のデータと、BtoBの企業の顧客のデータを単一のプロファイルにまとめ、両方のビジネスをサポートする。また、CRMやMAなどの他の企業向けデータ管理システムとリアルタイムに接続することが特長となる。