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伊藤忠グループ:現場起点で「地に足の着いたDX」をめざす

『データマネジメント2022』(JDMC)レポート

 伊藤忠にとってDXの取り組みにおける最優先領域は、生活消費サプライチェーンにおけるデータ活用。食品などの廃棄ロス、物流費の高騰、労働力不足など直面する課題に、いかに地に足をつけて解きほぐし、現場からの成果を積み上げながら推進していくか──この点で鍵になるのがデータだ。複数のプロジェクトを通じて見えてきた「現場起点のDX」について、伊藤忠商事の海老名氏が「データマネジメント2022」で紹介した。

DXを前提とした成長戦略の実行と体制

伊藤忠商事株式会社 IT・デジタル戦略部デジタル戦略室室長 海老名裕氏
伊藤忠商事株式会社 IT・デジタル戦略部デジタル戦略室室長 海老名 裕氏

 伊藤忠グループのDXの取り組みは2018年に着手され、DXを前提とした成長戦略の要として推進されている。伊藤忠におけるDXのポイントは「地に足をつけたDX」だ。ビジネスありきで収益性重視、コアとなる人材やチームも内製化する方向で準備されている。

  具体的な取り組みとしては「削る──サプライチェーンの最適化」「稼ぐ──消費者接点の高度化」があげられる。伊藤忠グループの事業会社がそれぞれのサプライチェーン領域、消費者接点領域で日々事業を展開しており、グループでのデータ活用とデジタルのテクノロジーの活用を通じて、期待効果を狙う。

 海老名氏は、伊藤忠グループはDXの取り組みを、1)働き方改革につながる生産性の向上のための「コーポレートDX」、2)既存ビジネスの磨きやビジネスモデルの進化のための「ビジネスDX」、3)ITサービス事業のようなDXの外への展開のための「DX事業」、の3つに整理して紹介した。

 「DX事業」は情報通信部門が主体的に取り組み、海老名氏の所属するITデジタル戦略部は、「コーポレートDX」を主体に、「ビジネスDX」はフロントのビジネスラインをサポートとして進められており、DX基盤の整備、人的リソースの提供、データ分析や環境整備などを提供している。

食品サプライチェーンの最適化プロジェクト

 海老名氏はサプライチェーンの最適化についてこう語る。

 「川上のメーカー、川中の卸、川下の小売、それぞれがサプライチェーン上のプレイヤーとして存在しています。業界を横断する形で、サプライチェーンデータの可視化としてデータをまとめて、業界を超えた活用に取り組んでいます。横断的な活用を通じて、川下を起点とした需要予測やニーズの把握から計画の精度向上や配送最適化などの実現を促進します」(海老名氏)

 伊藤忠グループでは食品スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアと数千品目の食品を1日あたり、およそ1万台のトラックを使って配達している。これらは日々サステナブルに展開する必要がある。そこでAIによる対メーカーへの発注自動化プロジェクトを進めているという。小売からの発注データと全国センターの在庫情報、天候やカレンダーなどのコーザル(影響要因)データを組み合わせて機械学習モデルに入力して、さらにはメーカー等が求めるケース単位やパレット単位などのロットに取り揃えて推奨発注量の通知を出す仕組みだ。従来、発注担当者が商品ごとに必要在庫数を計算して都度の発注値を出していた作業が半減され、結果として在庫数量を1割~3割、削減できている。

 トラックの台数に関して、卸から小売店舗への配送のうち、臨時チャーター便を削減するプロジェクトが紹介された。卸は当日午前、中小売からの発注が出揃うまでは、センターの当日の物量が確定しない。そのため確定後に限られた時間内で、通常のコースでは運びきれない店舗をピックアップし、そうした店舗によって新しい配送コースを組む作業を行っている。これにはトラックあたりの積載量や新しく作ったコースの総配送時間など複雑な計算が求められる。その日の臨時便の台数が増えると、時間との戦いになり、結果として物量が多い日や臨時便が多い日には積載率が下がり、コスト高になる。従来は人が計算をしていたが、数理計画法にもとづく機械計算によって、およそ2割から3割程度のトラックを減らせることが出来たという。

次のページ
「現場起点」のDXの要諦と今後の展望

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この記事の著者

山本信行(ヤマモトノブユキ)

株式会社Little Wing代表

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