生まれ変わる決意を込めた新基幹システム「Apple」
2022年1月21日、アステラス製薬はメディア向けに、近年のDXの取り組みに関する説明会を実施。同社 代表取締役副社長で経営戦略担当の岡村直樹氏は、DXに取り組む理由として「データに基づく経営」の実現を挙げた。
続けて須田氏は、DXを担う部門として情報システム部のほかに、データ分析を専門とする「AIA部門」、新規事業を目指す「Rx+事業創成部」を紹介。これらを中心に、創薬ではAI・ロボットの活用による研究の加速、開発ではリモートによる臨床試験の仕組み化をしているのだという。
さらに、そうした各所の取り組みや「データ駆動型経営」の実現を下支えする存在として、基幹システムを刷新したことを明かした。同社は従来「SAP ECC(ERP Central Component)」を使用していたが、新基幹システムはS/4 HANAを中核にしたもので、社内呼称は「Apple」。日本だけでなく、米国、欧州の海外拠点も統合し、さらにクラウド基盤への移行を実現したという。果たして同社の狙いとは。後日、須田氏に個別取材を実施し、その真意を訊ねた。
──新基幹システム「Apple」導入のプロジェクトについて説明いただけますでしょうか。
このプロジェクトは、会社を生まれ変わらせビジネスを変革することを目的に、グローバルでの業務標準化に取り組みました。そのため、プロジェクトを計画した当初から、経営層を含めて「単なるシステムの更新プロジェクトではない」ということを共通のメッセージとして掲げています。
今ちょうどグローバル化を進めているところですが、従来、人事や会計、調達、SCMといった管理部門は、それぞれの地域の事業を支える運営でした。もちろん、基幹システムも地域ごとにカスタマイズしたものを使っていました。これからグローバル化を進めていくにあたって、システムがバラバラだと、グローバルな視点での事業運営はできません。さらに、意思決定の元になるデータがバラバラでは、適切なタイミングでの意思決定も困難です。そこで、アステラス製薬は基幹システムの刷新を決断しました。
構想は正式決裁がおりる2016年秋の1年前から始まり、5年半かけて、S/4 HANAのグローバルテンプレートを定義。ようやく日米欧の3地域に入れ終わった状態です。ちなみに、社内呼称の「Apple」は何かの略ではなくて、『アダムとイブ』からインスピレーションを得て「新しい世界を始める」という意味を込めて命名しました。
──もともと地域別に事業をしていたんですね。今回のプロジェクト発足の背景を教えていただけますでしょうか。
実は、2014年にSAPがS/4 HANAを発表したとき、すぐに「導入したい」と思いました。というのも、その前年、情報システム運用体制のグローバル化を進めていた際に、SAP ECCのアドオン数やカスタマイズ状況を調査したのですが、とても多くて、危機感を抱いていたからです。「このまま利用していたら、いずれどこかに支障が出る」という危機感はありましたが、システム刷新だけが目的だったので、すぐには着手しませんでした。
その少し後に「事業運営そのものをグローバル化していこう」という動きが活発になり、管理部門をグローバルで運営できる組織にしなければいけない、ということに。その方針に、もともと構想していたシステム刷新を組み合わせました。新基幹システム導入は「ビジネス革新のためのプロジェクトである」と言えるのは、そういった背景があったからです。
──「S/4 HANA」を選んだ決め手は何だったのでしょうか。
大きい理由としては、もともと各地域で使っていた基幹システムがSAP ECCだったことですね。そのため、システムを刷新する先としてもSAPが一番妥当でした。SAPありきで進めたと言っても過言ではないです。ライフサイエンス領域だとSAPのシェアが特に高いというのもあります。
それに、S/4 HANA構築コンセプトが、これまでのSAP ECCの積み重ねではなく、“全部作り直して、シンプルな基盤にする”という点が、私が目指している企業運営基盤としてのシステムのイメージと合致したことも大きいです。