IBM Zの起源であるIBM System/360が発表された1964年以降、IBMはメインフレームでIT市場をリードしてきた。その後のオープン化の流れにも、ハードウェアからソフトウェアへの転換やコンサルティングやアウトソーシングのサービス展開などで、引き続きIT業界で大きな存在感を示してきた。順調だったビジネスが躓くのが、クラウドへの転換だった。SoftLayer TechnologiesのIaaSビジネス買収までは良かったが、それを上手く活用できずAWSやMicrosoftの後塵を拝することとなる。
IBMはKyndrylを分社化してハイブリッドクラウドとAIにより注力する
足踏みする中で新たに力を入れたのがビジネスのためのAIテクノロジー「Watson」だ。Watsonは、現状のAIブームの先駆けを作った存在と言えるだろう。しかし、クラウドと優秀なテクノロジーであるWatsonのかけ合わせが魅力的なものであっても、それですぐにIBMの売上が大きく上向くことにはならなかった。
起死回生の動きとなったのが、2018年10月に発表したRed Hatの買収だ。オープンソースソフトウェアのビジネスをリードしてきたRed Hatの買収に、IT業界は大いに驚かされることとなる。IBMではこの買収をきっかけに、自社のクラウドサービスに拘るのではなく、柔軟なRed Hat OpenShiftのコンテナ技術を活用するハイブリッド、マルチクラウドの戦略に舵を切る。
さらにIBMのグローバル・テクノロジー・サービス部門でSI事業やアウトソーシングなどを担っていたマネージド・インフラストラクチャ・サービス部門をKyndrylとして2021年9月に分社。この領域を切り離すことで、さらにハイブリッドクラウド、AI領域に注力する体制を整えた。ハイブリッドクラウドとAIは、過去10年、今後10年でももっとも大きなテクノロジートレンドであり、そこにIBMでは大きな投資をしていると言うのは、IBM Corporation シニア・バイスプレジデント グローバル・マーケット担当のロブ・トーマス氏だ。
多くの企業では、データがあってもそれを上手く活用できていない。ここにAIを活用することで、データから価値を見出せる。またサイバーセキュリティの問題が増えており、複雑化するサイバーセキュリティ対策はもはや人手だけで対処するのは難しい。そのため「人間の能力をAIが補完することが重要です」とトーマス氏。さらにビジネスのための人的リソースが足りない中では、自動化も重要だ。ビジネスプロセスの自動化もAIでサポートする。
その上で、多くの企業がモダナイゼーションを実施しビジネスに俊敏性と柔軟性を得るためにハイブリッドクラウドを活用する。パブリッククラウド、それを複数使うマルチクラウド、さらにオンプレミス、エッジを組み合わせて柔軟性と堅牢性、俊敏性をもたらすハイブリッドクラウド。Red Hatの技術を活用し、ハイブリッドクラウドをデザインし活用できるようにする唯一の企業がIBMとRed Hatであり「ハイブリッドクラウド、AIには大きなマーケットの需要があります。この需要は少なくとも今後10年は続くでしょう」とトーマス氏は言う。
IBMの戦略は、データ駆動型で顧客自身がデータドリブンになること。意思決定でもビジネスプロセスの中でもデータを活用し、その上で自動化により新たな生産性を生み出す。AIを用いて、誰でも生産性を上げ効率化できるようにすることを提唱する。セキュリティにおいても、いかにしてAIを駆使して安全でしっかりした組織を構築できるか。それをIBMはサポートする。
この戦略を実践する新生IBMには、テクノロジーとコンサルティングの2つの柱がある。ハイブリッドクラウド、AIを活用するには最新のテクノロジーが必要であり、それを使い企業がビジネスを変革する手伝いをするのがコンサルティングだ。コンサルティングでは、企業のビジネスプロセス変革の手伝いもすれば、単純にハイブリッドクラウド環境への移行などもサポートする。
自動車メーカーのアウディでは、オンプレミスのデータセンターから、パブリッククラウドも利用するプライベートクラウド環境を構築し、OpenShiftの技術を駆使してワークロードを適材適所に配置するハイブリッドクラウドを実現した。その結果として、アプリケーションをモダナイズし、分析ワークロードではスピードが100倍になっている。
その上でサーバー数を66%削減することもできた。これはAIOpsによりサーバーやストレージリソースの余裕、無駄を見直し、インフラを精査し最適化したことで実現されたものだ。サーバー削減でコストは減り、さらにエネルギー消費も減少している。「クラウドとAIOpsが上手く融合し、エネルギー効率を大きく改善できた事例です」とトーマス氏は言う。