システム開発は物つくりです。できた製品でシステムの成否が決まります。一方、システムを作る目的は、システム装置を飾るために欲しいわけではなく、それを使って新しいビジネスや商品を実現したいのですから、正しく動いて、期待通りのビジネスや商品が実現する。これが大切です。予算どおり、期限どおりに出来上がっても、不完全なシステムだったら困ります。バグがないことはもちろんのこと、非機能要求などもきちんと分析定義して、使ってみて満足のいくシステムとしなければなりません。直接、要件定義書やプログラムなどを見るレビューに加えて、プロジェクトレビューをうまく使い品質向上を実現しましょう。
最適ソリューションの実現
お医者さんに行って、「私は風邪なので治してください」と言ったとしたら、お医者さんは困ってしまうでしょう。本当に風邪でしょうか? それを決めるのはお医者さんです。システム開発の依頼者にもそういう人が時々います。オンラインがいい、Webがいい、この技術を使いたい、等々、大変結構なことです。「システム開発については任せた」、と言う人よりはるかに頼もしい存在です。しかし、やはり目的のビジネス効果を実現するための方法は専門家に任せるのがよいでしょう。最適ソリューションという言葉があります。実現の仕方にこだわる構想は感心しません。
世界最速、大容量のネットワークを引いて大量のデータを瞬時にやり取りをする、そうすれば情報共有が格段に進む、例えばこれだけの希望でもお金との相談になります。ビジネス合理性を欠いたシステムは欠陥システムです、タクシーにロールスロイスを使うでしょうか、普通の家庭にヒノキ風呂は不要でしょう。システムもまた、「うまい」「やすい」「はやい」が良いのであって、その視点を逸脱しては良いものが出来ません。
もちろん、新しい技術が新しいビジネスを可能にするのも真実です。システム開発には夢も希望も必要です(接待では牛丼よりステーキのほうに効果がありそうです)。しかし、やはり実現手段が複数ある場合、また最高性能でなくともビジネスの仕組みは有効に機能する場合など、実現方法は十分吟味する必要があるでしょう。
ところで、システムエンジニアという人たちもまた、少しでも良いものを作りたいという願望の持ち主です。作ったものが自分の作品であるわけですから、やはりそれは優れたものであって欲しいのは当然のことです。しかし、商用車は目的に合った車種でよいように、システムもまた目的にあったものが優れたものなのです。「シンプル イズ ベスト」です。合理性を欠いたシステムはたとえ高性能でも、公道を走れないレーシングカーのように採用することは出来ないのです。
プロジェクトレビューを開き、ステークホルダーも含めた多様な視点からの構想を吟味をすることで、思い入れの強さを補正しなくてはいけません。担当者が作りたいものからビジネスが必要とするものへ、最適な落としどころの実現には担当者レベルを超えた、管理者、レビューアーの見識が必要なのです。
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菊島 靖弘(キクシマ ヤスヒロ)
独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC) リサーチフェロー。1975年東京海上火災保険に入社。以来30年間、損害保険、生命保険、確定拠出年金といった業務システムの開発に携わった他、東京海上日動システムズ取締役品質管理部長として、トラブル削減や、開発品質管理の向上を実...
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