問題は「意思決定プロセス」にある
現在、滋賀大学データサイエンス学部で教授を務める河本薫氏は「大学の教員になってうれしい誤算は、いろんな企業の方がわざわざ彦根まで相談に来てくださること」と話す。以前は大阪ガスに27年間勤め、同社ビジネスアナリシスセンター所長を歴任したデータ分析の実務経験者だ。
河本氏のもとには「データ基盤や分析ツールに多額の投資をしたのに成果を出せない」「PoCまでは進むけど本番導入に進めない」「データサイエンティストが育たない」などの悩みが寄せられるという。こうした苦悩の背景には共通点があると話す。「データやAIで“何か”を改善すればビジネスの課題解決ができると認識しているものの、この“何か”をしっかり意識していない」と河本氏は指摘する。
ここでヒントになる言葉として、ノーベル経済学賞受賞者で行動経済学のダニエル・カーネマン氏の「組織とは、意思決定を生産する工場である」を紹介した。この言葉の「組織」を「企業」に置き換えてみると、いろんな担当者がいろんな意思決定をしており、その結果として新製品が生まれ、顧客満足度が変わり、利益が生まれるということになる。ともすれば、顧客満足度が低下するなどビジネスにおける課題は「意思決定を生産する方法がまずいから」だと捉えられる。
つまり、データやAIで課題解決するとは「勘と経験に頼る意思決定の生産方法(プロセス)を、データやAIも用いた合理的な意思決定の生産方法に改めて」課題解決することであると言える。ここで腹落ちできるかどうかが重要だと河本氏は強調した。
これらを意識せずにいきなりデータ分析するとどんなことが起こってしまうのか。河本氏は例として工場をあげた。工員それぞれが自分のやり方で製品を組み立てている工場に、産業用ロボットを導入できるだろうか。答えは明白で、作業がバラバラなのだからできるはずがない。この場合、産業ロボットを導入する前に、まず製造プロセスの標準化やモジュール化する必要がある。
話をデータ分析に戻そう。データ分析を意思決定プロセスに組み込むとしたら、意思決定プロセスを整理して、どこにデータ分析を入れられるかを考える必要があるのだ。河本氏はこれを「意思決定プロセスの設計」と呼ぶ。