パーパス経営と人的資本経営の重要性が高まる
パンデミック発生に伴う新しい働き方への適応と同時に、企業にはこれからの人材戦略のあり方が改めて問われている。そして今、人的資本が強調されるのは、人材をコストではなく資本と捉えて投資を行い、企業価値の持続的成長を実現する変革が求められているためだ。世界的に産業構造が大きく変わろうとする中、新しいビジネスの創出も並行して進めなくてはならない。となれば、採用中心の人事の仕事も変わらざるを得ないわけだ。
人事からすると「これまでも自社の事業特性に合わせた人材要件の定義と、それに即した採用を進めてきた。なぜ今?」と考えるかもしれない。しかし、今起きている産業構造の変化は、人事が拠り所としてきた業務の前提を大きく変える規模のものだ。例えば、世界の自動車業界が2030年に向けたEVシフトに追随しようとしている。国内だけでも、今後10年弱で、関連産業を含めて約550万人の就労者が業界再編の影響を受ける計算になる。他の産業も無風ではない。デジタルディスラプターの脅威に対抗しようと、多くの産業でデジタル変革が進行中だ。どの企業も不確実性の高い経済環境に適応するべく、変革に取り組んでいかなくてはならない。
企業と従業員の関係も変わる。企業が終身雇用や年功序列で人材を囲い込む時代は既に過去のものになった。企業が優れたスキルを持つ人材を選びたいと考えるように、個人も優れた企業で自分のスキルを活かしたい。お互いが選び、選ばれるオープンな雇用環境の構築を実現することが、日本社会が目指す姿になる。だがその道のりは平坦ではない。パンデミック以降、米国労働市場ではこれまで以上に流動性が高まっており、人手不足の問題が浮上している。日本でも生産年齢人口の減少と相まって人手不足の問題が深刻になってきた。となれば、必要な人材を獲得できるかに加えて、獲得した人材を維持することも重要になる。
説明会に登壇した善浪氏は、「CFOを集めたラウンドテーブルを実施したところ、経営管理の話が中心になると思いきや、途中からパーパス経営や人的資本経営に話題が変わった」と明かした。このエピソードからは、人事だけでなく、他の経営幹部も人の課題に正面から取り組もうとする意欲の高まりが伺える。経営者は、自社の存在意義(パーパス)を見直し、そのパーパスに共感を得た人材に活躍してもらえる環境をCHROと共同で創っていかなくてはならない。