トップから感じたDXへの熱意、やるしかないと腹をくくった
DXブーム以前から、石油・エネルギー業界ではプラントなどの安定稼働のために、データの収集・分析を実施しており、各プロセスにおける最適化は他業界と比べても高精度と言えるだろう。コスモエネルギーホールディングス(以下、コスモ)でも当然のごとくデータは活用され、各部門での業務改革も堅実に推進されてきた。
2017年度に策定し、2018年から取り組まれている第6次中期計画には、DXというキーワードは登場していなかった。しかし、2020年にIT部門内にDX推進グループが設立され、約1年後の2021年11月、ルゾンカ氏のCDO就任と同時にコーポレートDX戦略部が設置され、本格的にDXへ取り組む体制となった。
当時、経営企画部業革推進グループ長だった夏目氏は、「桐山社長(現会長)からは『業務効率化というレベルではなく、根本的に仕組みを変えていく必要がある。ベテランが経験と勘で判断していくのではなく、データをもっと活用して若い世代も意見していけるような会社にしたい』と言われていた」と振り返る。そこにコスモ初のCDOとして着任したのが、米国で心理学博士号を取得し、多数の外資系金融機関でのビジネスアナリティクス部門の立ち上げに携わってきたルゾンカ氏だった。
石油・エネルギー業界は初めてとはいえ、ルゾンカ氏は「学生時代から現在まで、私のパッションの対象は、常にデータを見える化してビジネスに活かすことにある。石油・エネルギー業界は、金融業界と同じく“規制産業”という側面で、考え方やビジネス慣習が似ており、自身の経験を活かせると感じた」と語る。
特に可能性を感じたのが、桐山浩会長をはじめ経営陣の一貫した熱意とロジカルな考え方だ。エンジニアリングを起点とする理路整然とした考え方は、データを活用する上で不可欠であり、同社の人材層やビジネスの厚さからも伸びしろを感じられたという。「企業規模を問わず、経営トップの方向性が一貫していなければ、ビジネスアナリティクスの文化は根付かない。ビジネスに対するビジョンとの一致が、私にとって最高のモチベーションになる」とルゾンカ氏は語る。
そして、もう一つ、ルゾンカ氏がコスモのDXに本気で挑むことを決意させたものが、夏目氏をはじめとしたDX推進チームだ。現在コーポレートDX戦略部長としてチームに参画する夏目氏は、社歴20年以上で社内の人脈も広く、社内の橋渡し役としても重要な役割を担っている。
ルゾンカ氏は、「私が課せられたミッションを全うするためには、私と一緒に走ってくれるコアメンバーが不可欠だった。着任前にそう伝えたところ、桐山会長が選んだメンバーが夏目さんを含めた3人だった」と語り、「実際に会ってみると、DXに本気であることを強く感じた。社内の誰もが『あの人がやるなら会社は本気なんだろう』と思わせるに十分なメンバーを揃えてくれており、その思いに応えねばと強く思った」と振り返る。
実際にDXにあたるメンバー選定では、ルゾンカ氏自身が“有していない要素”を持つ人をリクエストしたという。まず、1人目として、ビジネス全体を俯瞰でき、バランスが取れていて広い人的ネットワークを持つ人。それが夏目氏であり、ルゾンカ氏は「彼は“ハッピーな人”で仕事がやりやすい」と笑みを浮かべるなど、2人の軽快なやりとりからも確固としたパートナーシップを感じさせる。
そして2人目には、システムの全容がわかり、データを活用する上でガバナンス対応ができること。3人目は、ビジネスの最前線で動ける人として、コスモのマーケティング部門でデジタルプロジェクトを推進しているメンバーが加わった。
ルゾンカ氏は「経営層の理解と信頼、そして最高のメンバーが揃い、あらためて本格的にやるしかないと腹をくくった。DXを推進する際に、トップダウンの判断が必須と言われるが、外部からCDO(Chief Digital Officer)を連れてくるだけでなく、必要な人員を社内から集められることが重要」と語り、「今回招集したメンバーは、いずれも各部署で活躍しているエース級の人材であり、現場の戸惑いも大きい。だからこそ、元の部署にも成果を倍返しで返せるようにしたい」と意欲を見せた。