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『EnterpriseZine Press』

2024年秋号(EnterpriseZine Press 2024 Autumn)特集「生成AI時代に考える“真のDX人材育成”──『スキル策定』『実践』2つの観点で紐解く」

レガシーを活かしモダナイズで価値を高める、エンタープライズ・アーキテクチャの実践

社内のステークホルダーと足並みをそろえて変革を進めるために、まずは「可視化」することから

第2回:ITインフラから考えるビジネスニーズの把握とアーキテクチャ策定

 連載の第2回では、アーキテクトの変遷から、今求められる「エンタープライズ・アーキテクト」の在り方、アーキテクチャ策定で特に意識する視点の定め方までを解説します。IT部門単体としての視点だけではなく、業務部門と共創および相互補完し合うことで形成される相乗効果や、部門間で意見が分かれるときに特定すべき要素・共通理解に向けて大切になること、関係性の変化まで、対比的な視点にも焦点を当てます。

各ステークホルダーの視点を意識した「一枚絵」を描く

 近年、ようやく「アーキテクト」の概念が一般的になったと感じています。以前のシステムエンジニアリングにおける、いわゆる「モノづくり」の観点に加えて、全体の構造を俯瞰的に捉えるアーキテクティングの役割が高まり、日本でも広く知られるようになりました。

 IT業界を取り巻く近年の動向として、私たちが担当するお客様の大半は、既に多くのシステムやサービスを保持・運用している傾向があります。これらの既存システムは現在利益を生み出す源泉となっていますが、いずれレガシー化することは免れず、モダナイゼーションを行う必要があるでしょう。そのうえ、顧客のニーズは常に変遷し、ニーズを的確に把握した商品やサービスを提供するシステムを追求する必要もあります。このITにおける「攻め」と「守り」を両立する課題は、お客様の経営における共通の課題です。

 「顧客ニーズの把握」という点においても、かつての企業は商品(モノ)をいかに効率良く販売するかを考えることが主眼だったことに対し、現在は価値・体験(コト)を提供することで顧客満足につながる高い視座による、より深い戦略が求められるようになりました。このような背景から、エンタープライズ・アーキテクチャスキルの需要が高まっています。

 エンタープライズ・アーキテクチャは、2000年代中頃にエンタープライズ全体の業務とITのロードマップを描いて事業変革を推進するフレームワークとして注目されました。その後、日本では目に触れる機会が減った一方で、海外ではエンタープライズ・アーキテクチャの定着とデジタル経営時代に合わせて進化が継続し、多くの企業で全社IT戦略を検討する必須のフレームとなっています。エンタープライズ・アーキテクチャを用いて、全体を俯瞰し、レガシーシステムのモダナイゼーションを遂行しながらイノベーション領域に経営資源を投入する戦略を立案し、それらを遂行することが、今求められる姿と言えます。

画像を説明するテキストなくても可

 アーキテクチャを策定する際、特に「視点」を意識しています。アーキテクチャとは静的および動的な「構造」であり、それをモデリングで可視化することがアーキテクトの責務の一つです。ただ、CEOやCFO、CMO、CIO、運用者、エンドユーザーに至るまで、ステークホルダーによってアーキテクチャに求める視点は異なります。そのためコストやデータ、既存ITとの親和性、運用のしやすさ、サービスの使い勝手など、各ステークホルダーの観点を意識してアーキテクチャを描くことが重要です。

 私は、最初にAOD(アーキテクチャ・オーバービュー・ダイアグラム)を作成することが多いですが、これは経営トップからITマネージャー、担当者までもがアーキテクチャ全体像を理解するための一枚絵です。そこには施策の本質が端的に可視化されている必要があります。また、アーキテクチャ策定のプロセスでは、ステークホルダーとのコミュニケーションが重要です。たとえば、図上のコンポーネントの各箱にはステークホルダーにとっての意図が反映されるべきで、そういったことを会話の中から汲み取り、可視化することで初めて価値が生まれると言えます。

次のページ
業務部門との共通理解に導くポイント

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この記事の著者

松澤 匡乙(マツザワ キョウイチ)

キンドリルジャパン株式会社 クライアントテクノロジー戦略部門チーフアーキテクト。1996年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。流通業大手数社のシステム開発にシステムエンジニアとして従事。2001年クライアント・テクニカル・アドバイザーとして大規模案件のソリューショニングを担務。以降,大手商社および流通...

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