SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

最新イベントはこちら!

Data Tech 2024

2024年11月21日(木)オンライン開催

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けの講座「EnterpriseZine Academy」や、すべてのITパーソンに向けた「新エバンジェリスト養成講座」などの講座を企画しています。EnterpriseZine編集部ならではの切り口・企画・講師セレクトで、明日を担うIT人材の育成をミッションに展開しております。

お申し込み受付中!

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine編集部が最旬ITトピックの深層に迫る。ここでしか読めない、エンタープライズITの最新トピックをお届けします。

『EnterpriseZine Press』

2024年秋号(EnterpriseZine Press 2024 Autumn)特集「生成AI時代に考える“真のDX人材育成”──『スキル策定』『実践』2つの観点で紐解く」

紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

ユーザーとベンダーで押し付け合い?──準委任契約のプロマネ義務はどちらが負うか

 本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは「準委任契約のプロマネ義務はどちらが負うか」です。IT開発をベンダーに依頼する際に結ぶ契約形態として多いのが請負契約と準委任契約ですが、ユーザーとベンダー双方の間で責任の追及をめぐり紛争が起きることは珍しくありません。今回は、そういったプロジェクト管理において双方で注意すべき勘所を学びましょう。

プロジェクト管理に責任を持つのは誰か

 この連載の読者の皆さまであればもう十分にご承知かと思いますが、IT開発をベンダーに依頼する場合、その契約形態として多いのは「請負契約」と「準委任契約」です。

 簡単に言うと、請負契約の場合、そこで行われる作業はすべてベンダーの責任下で行われ、ユーザーはとにかく“成果物”、つまりシステムやソフトウェアが予定通りに納品されれば、ベンダーがどのような体制やスケジュールで作業したり、コストがオーバーあるいはショートしようが関係はありません。とにかく“成果物”がすべてとなります。

 一方で「準委任契約」は基本的に、本来はユーザーが行うべきことを専門家であるベンダーが支援するという契約です。ですから、基本的にはスケジュールを策定したり、ベンダーに何をしてほしいのか指示を出すのはユーザーの役割です。

 無論、こうしたことをユーザーだけで行うのは難しいので、ベンダーにもいろいろと手伝ってもらうことはありますが、プロジェクトの安定的な進捗に最終的な責任を負うのはユーザーであり、成果物であるシステムについてもユーザーが責任を持ちます(これについては若干のエクスキューズがありますが、それについては後述します)。

 この場合問題になるのは、“プロジェクト管理に責任を持つのはどちらか”ということです。準委任契約は、基本的にユーザーの指示に基づいて作業が進められるわけですから、作業進捗やリスク・課題の管理はユーザーにあります。それは一つの原則ではあるのですが、ユーザー側が責任を持ちきれない部分もあります。

 たとえば、システムで使用するソフトウェアの中身がわかっていないと、ユーザーには何がリスクなのか、進捗にどのような影響がでるのかわからないという場合もあり、「そこはベンダーが管理すべきではないか」という意見もあることでしょう。

 今回は、そんなことが争われた紛争をご紹介します。事件の概要からご覧ください。

【東京地方裁判所 令和4年6月17日判決より】 

 住宅建材等の製造および販売などを営むユーザー企業が、ITベンダーに販売管理等を行うシステムの開発を準委任契約で依頼した。開発は、ITベンダーの提案に従い、セールスフォース・ワン・プラットフォーム(以下、SF)というソフトウェアをベースに開発することとなった。

 SFは単体で情報システムとして動作する、いわゆるパッケージソフトウェアではないが、販売管理などを行うためのソフトウェア部品群である。システム全体の中で、SFを利用して開発する部分が増えれば、その分コスト削減とスケジュール短縮が期待できるというものであった(ただし、システム全体をすべてSFで実現できるわけではなく、一部のカスタマイズ部分や追加機能についてはスクラッチ開発が残ることは両社共承知の上だった)。

 しかし開発を進めると、ユーザーから提案時には想定していなかった追加要望が多数寄せられた。追加要望にはSFの部品を利用できない機能が多かったことから、本システム全体に占めるSF利用はコード行数に換算して全体の5%程度となった。結果、プロジェクトは著しいコスト増とスケジュール遅延が見込まれることとなり、契約は解除となった。

 これについてユーザーは、「プロジェクトの失敗はユーザーのプロジェクト管理義務違反である」としたが、ITベンダーは「本契約は準委任であり、プロジェクト管理義務はユーザーにこそある」と主張して裁判となった。

※() 内は筆者の加筆。

※出典:ウエストロー・ジャパン 文献番号 2022WLJPCA06176001

 いわゆる、プロジェクト管理義務の所在を争う裁判です。私の経験からすると、そもそもこうした争いは請負契約に多く、プロジェクト管理義務がユーザーにあるという主張は珍しいところではあります。しかし、確かに成果物に責任を持たない”支援”的な要素の強い準委任契約では、ユーザーこそプロジェクト管理者であるという主張も成り立つとは思います。

次のページ
判決で下された責任の所在

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/17925 2023/06/27 08:00

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング