プロジェクト管理に責任を持つのは誰か
この連載の読者の皆さまであればもう十分にご承知かと思いますが、IT開発をベンダーに依頼する場合、その契約形態として多いのは「請負契約」と「準委任契約」です。
簡単に言うと、請負契約の場合、そこで行われる作業はすべてベンダーの責任下で行われ、ユーザーはとにかく“成果物”、つまりシステムやソフトウェアが予定通りに納品されれば、ベンダーがどのような体制やスケジュールで作業したり、コストがオーバーあるいはショートしようが関係はありません。とにかく“成果物”がすべてとなります。
一方で「準委任契約」は基本的に、本来はユーザーが行うべきことを専門家であるベンダーが支援するという契約です。ですから、基本的にはスケジュールを策定したり、ベンダーに何をしてほしいのか指示を出すのはユーザーの役割です。
無論、こうしたことをユーザーだけで行うのは難しいので、ベンダーにもいろいろと手伝ってもらうことはありますが、プロジェクトの安定的な進捗に最終的な責任を負うのはユーザーであり、成果物であるシステムについてもユーザーが責任を持ちます(これについては若干のエクスキューズがありますが、それについては後述します)。
この場合問題になるのは、“プロジェクト管理に責任を持つのはどちらか”ということです。準委任契約は、基本的にユーザーの指示に基づいて作業が進められるわけですから、作業進捗やリスク・課題の管理はユーザーにあります。それは一つの原則ではあるのですが、ユーザー側が責任を持ちきれない部分もあります。
たとえば、システムで使用するソフトウェアの中身がわかっていないと、ユーザーには何がリスクなのか、進捗にどのような影響がでるのかわからないという場合もあり、「そこはベンダーが管理すべきではないか」という意見もあることでしょう。
今回は、そんなことが争われた紛争をご紹介します。事件の概要からご覧ください。
【東京地方裁判所 令和4年6月17日判決より】
住宅建材等の製造および販売などを営むユーザー企業が、ITベンダーに販売管理等を行うシステムの開発を準委任契約で依頼した。開発は、ITベンダーの提案に従い、セールスフォース・ワン・プラットフォーム(以下、SF)というソフトウェアをベースに開発することとなった。
SFは単体で情報システムとして動作する、いわゆるパッケージソフトウェアではないが、販売管理などを行うためのソフトウェア部品群である。システム全体の中で、SFを利用して開発する部分が増えれば、その分コスト削減とスケジュール短縮が期待できるというものであった(ただし、システム全体をすべてSFで実現できるわけではなく、一部のカスタマイズ部分や追加機能についてはスクラッチ開発が残ることは両社共承知の上だった)。
しかし開発を進めると、ユーザーから提案時には想定していなかった追加要望が多数寄せられた。追加要望にはSFの部品を利用できない機能が多かったことから、本システム全体に占めるSF利用はコード行数に換算して全体の5%程度となった。結果、プロジェクトは著しいコスト増とスケジュール遅延が見込まれることとなり、契約は解除となった。
これについてユーザーは、「プロジェクトの失敗はユーザーのプロジェクト管理義務違反である」としたが、ITベンダーは「本契約は準委任であり、プロジェクト管理義務はユーザーにこそある」と主張して裁判となった。
※() 内は筆者の加筆。
※出典:ウエストロー・ジャパン 文献番号 2022WLJPCA06176001
いわゆる、プロジェクト管理義務の所在を争う裁判です。私の経験からすると、そもそもこうした争いは請負契約に多く、プロジェクト管理義務がユーザーにあるという主張は珍しいところではあります。しかし、確かに成果物に責任を持たない”支援”的な要素の強い準委任契約では、ユーザーこそプロジェクト管理者であるという主張も成り立つとは思います。