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「メンバー全員がアーキテクチャを意識」アサヒグループのITモダナイズは“プロセス変革”で挑む

「アーキテクチャ」を常に念頭に置いてモダナイズを進める

 2023年6月21日、EnterpriseZine編集部主催のオンラインイベント「EnterpriseZine Day 2023 Summer」が開催された。基調講演にはアサヒグループジャパン DX統括部 執行役員 DX統括部長 山川知一氏が登壇し、「アサヒグループの『6層のアーキテクチャ』によるモダナイズ、“プロセスづくり”を重要視した進め方とは」と題し、同社が進めるモダナイズの取り組みについて紹介を行った。

「DX=BX」を標榜し、全社レベルでDX推進に取り組む

 アサヒグループジャパンは、アサヒグループ内において日本地域の事業を統括しており、アサヒビールやアサヒグループ食品、アサヒ飲料など各事業領域を担当する事業会社を傘下に置く。同社では現在、日本国内の事業を対象にDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組んでおり、その推進役を担っているのが山川氏が率いるDX統括部だ。

 アサヒグループが目指すDXは単にデジタル技術にフォーカスするだけでなく、最終的にビジネスオペレーションや企業文化を変革する「BX(ビジネス・トランスフォーメーション)」の実現につながることを目指す、「DX=BX」というキーワードを標榜している。そしてDX統括部は、このBX実現に向けた取り組みをIT・デジタルで下支えする「イネーブラー(enabler)」としての役割を担っているという。

 「主に『人材のリスキリング』『IT基盤の強化とDXの推進』という2つの領域での活動を通じて、継続的にBXを実行するための『働く環境』『データ利活用』『デジタル人材』『システム』といった各種ケイパビリティの開発・向上に貢献することがDX統括部の主なミッションです」(山川氏)

 そのための具体的な施策として、たとえばこれまで自社環境内に限定されていたITシステムの利用については、モバイル端末やクラウド環境を「いつでも、どこでも、どんな端末でも」利用できる環境へと変革したり、一部のユーザーのみに限定されていたデータを解放することで「データの民主化」を実現したりする施策などを推し進めている。

 また、一部の社員のみがデジタル技術に触れている現状から、全社員がデジタル人材となるべく人材育成策も講じている。DX統括部のミッションも、従来のIT部門のような「業務効率化」を目指すだけでなく、業務部門とともにビジネスを変革していくパートナーとなるべく組織変革に取り組んでいるという。

 こうした考えの下、2030年に達成すべき「あるべき姿」を明確に描いた上で、現状とのギャップを埋めるための戦略と計画を『DX Strategy 2030』として取りまとめ、その内容に基づき「DX=BX」の実現に向けて全社一丸となって挑戦を続けている。

「モノリシック」「サイロ化」古いアーキテクチャをモダナイズ

 アサヒグループジャパンが『DX Strategy 2030』において特に重視しているものが、アーキテクチャの刷新を通じた“ITシステムのモダナイズ”だ。

 「これまでは『一からシステムを作って限界まで使い続ける』という方針をとっていたため、システムがどうしても硬直化してしまい、事業環境の変化に迅速かつ柔軟に対応できませんでした。そこで、クラウドや既存サービスを組み合わせることで『俊敏に変え続けていけるアーキテクチャの実現』を目指しています」(山川氏)

 現行システムの多くが「モノリシック(一枚岩)」なアーキテクチャに基づいて設計・開発され、機能追加として増築・改修を繰り返してきたために、中身が複雑化・ブラックボックス化してしまった。そのため、何か変更を加えようとするとシステム全体に及ぶ影響が正確に把握しづらくなり、ビジネス側の要請に迅速に応えることが難しくなってきたという。

アサヒグループジャパン DX統括部 執行役員 DX統括部長 山川知一氏
アサヒグループジャパン DX統括部 執行役員 DX統括部長 山川知一氏

 実際、同社では20年以上稼働しているレガシーシステムが存在しているほか、会計・人事システムに利用してきたSAP ERPの保守が2027年に終了する「2027年問題」にも直面している。また事業ごとに最適化させてシステムを構築・運用してきたため「サイロ化」してしまい、部門を横断したデータの利活用も困難になっていた。

 そこで従来の「密結合」のアーキテクチャから、システムを機能別に分割した「疎結合」のアーキテクチャへと段階的に変革するプランを策定。具体的には、まずアプリケーションを機能別に「SoR(System of Record)」「SoE(System of Engagement)」「SoI(System of Insight)」に分けて考える。さらにアプリケーション間でデータを連携するためのデータハブ機能を担う「データ連携」、インフラ機能を担う「汎用基盤」、そしてセキュリティ機能を担う「ゼロトラストセキュリティ」という計6層の構造を定義し、ビジネス変化に俊敏に対応し続けられるアーキテクチャへと進化させることを目指している。

次のページ
DX実現のために必要な「マインド醸成」と「人材育成」

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この記事の著者

吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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