1999年の創業以来、顧客と企業の接点をより良いものにするCRMを生業としているのがSalesforce.comだ。Salesforceではこれまで、自社独自のアプリケーションと買収製品などを組み合わせて、CRMに関わるさまざまなアプリケーションを1つにしたCustomer 360と呼ぶCRM基盤を構築してきた。このCRM基盤に新たに組み込まれたのがデータ活用のプラットフォーム「Salesforce Data Cloud」だ。Data Cloudはどのようなものか、日本でこれをどう展開するのか、株式会社セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 エンタープライズ営業第一統括本部 兼デジタルマーケティングビジネスユニット 統括本部長の三戸 篤氏に話を訊いた。
Einstein 1 PlatformはCRMのためのAIプラットフォーム

2023年9月に米国サンフランシスコで開催された年次カンファレンス「Dreamforce」では、「Einstein 1 Platform」が発表された。これはCRMのために最も信頼性の高いAIを提供するためのプラットフォームだと言う。発表時のキャッチフレーズは「AI+データ+CRM」で後に「トラスト(信頼)」を追加し、これで企業のイノベーションを実現すると三戸氏は説明する。
Einstein 1 Platformの中心は、Salesforceが提供してきた営業やサービス、マーケティング、コマースなどのCRMのアプリケーションだ。従来の汎用的なアプリケーション群に加え、最近ではインダストリーズと呼ぶ業界、産業別のCRMアプリケーションにも力を入れている。
そしてSalesforceでは、現状の生成AIブームの前となる2016年にAI技術のEinsteinを発表している。同社のAIの取り組みは、このEinsteinブランドのもとに展開されており、CRMアプリケーションの中で予測やリコメンドの機能として実装されている。それらの機能を使い、週に1兆回を超える予測処理を行っており、Salesforceの持つAIに関する特許数は300を超えている。EinsteinのAI基盤は、Einstein 1 Platformの主要な構成要素となる。
現状、「企業は生成AIに高い関心がありますが、同時に利用には心配の声もあります。どのように信頼性を担保するかは、生成AIのエンジン性能と同等か、それ以上に大事なことです」と三戸氏。AI利用における心配を取り除くには、信頼性を担保しなければならない。そのために用意されているのが、CRMのアプリケーション群とEinsteinの間に置く「Einstein Trust Layer」だ。このレイヤーを介することで、たとえば顧客データを匿名化し顧客のプライバシーを守った形でAIを活用できる。
Salesforceでは、CRMの各アプリケーションの用途に特化した、独自開発のGPT(Generative Pre-trained Transformer:事前学習の文章生成言語モデル)を用意している。とはいえ、「ニーズに合わせ、顧客が使いたいLLM(Large Language Model)を使い分けられるようにしています」と三戸氏。OpenAIなど外部のLLMも柔軟に選択でき、それらを利用する際もEinstein Trust Layerを介し信頼性を担保できる。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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