「適切なERP更改は『トレンドの潮目』を読めるかどうか」“統合型ERP”を謳うfreee、その戦略は
SaaS型ERPの需要は中堅・大手企業でも拡大か

中堅・大手企業のIT部門は、2027年末に控えた「SAP ERP 6.0」などの標準サポート終了への対応に迫られている。この状況は、SAP S/4HANAを含むクラウドERPへの関心を高め、人手不足に陥るほどの活況へと導くと同時に、SaaS型のコンポーネントERPにも注目を集めた。では、実際に同市場はどのような様相を呈しているのか。スモールビジネス向けの統合型クラウドERP「freee統合型ERP」を提供するfreeeの執行役員 社会インフラ企画部長 木村康宏氏に動向を聞いた。
わずか10年でSaaSの業務システムが浸透 ERPもクラウドへ
ここ10年余りで、小規模企業や零細企業を中心にクラウド会計が広がってきた。特に、新規で会計ソフトを導入する際にはクラウドを選択する傾向が強まっている。それを牽引してきた企業の一つがfreeeだ。
ERPの現況について木村氏は、「SaaSの市民権はスモールビジネス層で確立し、新規導入や移行ではクラウド化が基本となりました。しかし、従業員数が300人から1,000人規模の企業ではまだ混沌としており、SaaS型のERPが導入されることもあれば、周辺システムのみに留まるケースもあります。また、1,000人以上の企業規模になるとSAPなどが導入されており、周辺システムから徐々にSaaS化している最中でしょう」と話す。

特に、債権債務管理や請求書処理などの業務ではSaaS利用が進んでおり、技術の進化も相まって新たなサービスを組み込む動きも加速。人事・労務領域ではWebベースのUIやスマホ対応が進んでいる。また、税制改正や働き方改革といったトレンドもERP市場に影響を与えており、SaaSはこうした法改正やニーズの変化に対応しやすい。従業員にとっても受け入れやすいUIが求められている中、属人化の解消、ワークフローの変更などの観点からもSaaSが効果的だという。
この10年間での変化は、ERP市場にも大きく影響を与えていると木村氏。Webの会計ソフトが目新しかった状況から新設法人にとっては当たり前となっていき、2015年から2019年にかけてのベンチャーブームで、業務範囲の拡大などと呼応するようにクラウドやSaaSのシステムが浸透してきた。
その後、働き方改革やコロナ禍によるリモートワークの普及が勤怠管理やワークフローのWeb化に拍車をかけると、2023年にはインボイス制度の開始、電子帳簿保存法の改正などが影響を与え、帳票処理の自動化も進んでいる最中だ。さらに、2024年には働き方改革関連法に係わる適用猶予業種への時間外労働の上限規制が適用される。
加えて、DXという大きな潮流も外せない。特に情報システム部門を持つような1,000人規模以上の企業においては、グループ業務の変更や二層ERPの導入が検討されてきた。
そもそもERPはモジュール間でやりとりするデータの整合をとり、川上から川下までデータを統合管理することを想定したものだ。一方で、現状のSaaS型のERPに目をやると経費精算や人事・労務に係わる機能など限られた領域での統合に閉じてしまい、あらゆる業務をカバーしながら一貫性をもって管理するという“コアERP”としての利用を重視したSaaSベンダーは少ない。だからこそfreeeでは、スモールビジネスに焦点をあてながら“統合型ERP”としての戦略を重要視していると木村氏は強調する。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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