投資規模以上の対価を日本企業はAWSへ支払うことに
AWSは2011年に東京リージョンを開設して以来、2022年までに1兆5,100億円ほどの投資を日本で行っており、年間平均で7,100人の雇用も創出してきた実績がある。ここにきて、さらに大規模な投資を明らかにしており、今後も継続して日本市場のビジネスを拡大し続けることを約束した。今回、これだけの投資を明らかにするのは、それだけ日本市場でのビジネス拡大を確信しているからだ。2027年までに投資するとした金額は、主にデータセンターを増強するための部材や人件費、さらにデータセンターインフラのランニングコストなど。当然ながら投資の結果、増強・拡大されるデータセンター上には、AWSの各種クラウドサービスも増えていく。
つまりは、今回明らかになった投資の何倍ものビジネス、AWSの売り上げが日本で期待されるということだ。日本の民間企業や政府機関などは、AWSのクラウドサービスを利用する対価として、それを支払うことになる。クラウド市場でトップを走るAWSほどではないにしろ、MicrosoftやGoogle、Oracleなど追随するクラウドベンダーも、日本市場の拡大には期待を寄せており、さらなる投資を日本で行うはずだ。もちろん、日本社会の成長を願ってボランティアで投資するわけではなく、当然ながら“相当の対価”を期待しての投資となる。
投資に見合う莫大なクラウドサービス利用料を、日本企業がベンダーに支払うことが悪いわけではない。多額の利用料を支払うのならば、それ以上のメリットを得られなければならないということだ。そのためには無駄をなくし、「クラウドコストの最適化」が求められる。最近ではクラウドコストを最適化する「FinOps」という言葉も頻繁に見かけるようになった。
クラウドが登場した当初は、オンプレミスから移行するだけでもコストは下がると期待された。実際、ハードウェアの維持管理や運用管理負担も減ることで、コストが減るケースは多かった。とはいえ、数年間にわたりクラウドを使い続けると「想定よりもコストが減らない」あるいは「想定以上のコストがかかる」との声も聞こえてくる。加えて、昨今の円安の影響もあり、使い方は変わらないのにコストだけが上がるとの悲鳴も聞こえるだろう。
簡単にリソースを確保し利用できる、これはビジネスでの俊敏性を得られるなど、クラウド利用のメリットだろう。しかしながら、ビジネス部門の要求に応じて次々とインスタンスを追加していくとサービス利用が増え、コストも大きく積み上がってしまう。また、オンプレミスでは限られたリソースを最大限に活かせるようにチューニングなどで工夫してきたが、クラウドでは性能が足りなければリソースを追加購入して課題解決とすることも多い。当然ながら、こうした利用ではコスト増加につながる。最近では、コストの増加やコントロールの難しさを嫌い、オンプレミスに回帰する話も耳にするだろう。
AWSやOracle Cloudのビジネスに注力するアシストも、クラウドコストを気にする顧客は多いと話す。アシストの主要顧客である売上高300億円以上の大企業では、事業部単位でクラウドサービスを導入していることも多く、全社的な統制が効かずにクラウドコストが積み上がるケースも少なくないという。早い時期からAWSの利用を始め、多くのクラウドサービスを積極的に利用している企業にこそ見られがちだ。
もちろん、クラウドを積極的に利用する企業は、その柔軟性や俊敏性のメリットを十分に理解している。だからこそ、事業部単位で柔軟にサービスを立ち上げるために利用しているのだ。ただし、きっちりしたキャパシティ計画を立てず、余裕を見てリソースを大きく用意しがちだ。また、一度立ち上げたリソースが必要なくなれば削除できることもクラウドのメリットだが、実際はそのまま放置されているケースも珍しくない。こうした無駄な利用が多少あっても部門単位で見れば予算内に収まっているため積極的なコスト削減に動かず、結果として全社で見たときに大きなコストが発生してしまっている。
こうした状況下では、CCoE(Cloud Center of Excellence)のような組織が全体のコスト管理を行うことになるだろう。とはいえ、柔軟性や迅速性を重視した“部門判断”でクラウドサービスを利用している場合、全社規模でクラウドコストを詳細に把握することは難しい。他方、全社的なクラウドコストを把握できている企業では、想定外のコスト増大を懸念しすぎるあまり、リソース追加や新サービスの利用を承認制にして統制強化に走ってしまう。そうなればタイムリーなリソース管理が難しくなり、クラウドがもつメリットを大きく損なうことになるのだ。