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『EnterpriseZine Press』

2024年秋号(EnterpriseZine Press 2024 Autumn)特集「生成AI時代に考える“真のDX人材育成”──『スキル策定』『実践』2つの観点で紐解く」

“超上流”プロジェクト推進リーダー育成術

コンサル依存のIT部門を12週間でビジネスに“強い”組織へ 経験学習による能動的マインド醸成法とは

IT部門編:ビジネスアーキテクト人材を増やすための実践知を紹介

 テクノロジーなくしては企業活動も不可能な時代、企業間競争で生き残るために「ビジネスの目的を考え、テクノロジーを活用して達成できる」人材が求められています。こうした背景から、DX推進部門やIT部門への期待と負担は大きくなるばかり。日々の業務をこなしながら、ビジネスに直結するような「超上流工程」で企画を推進するような“テクノロジー組織”へ変革していくにはどうしたら良いのでしょうか。連載「“超上流”プロジェクト推進リーダー育成術」では、ビジネスとテクノロジーをつなぐ役割を果たす人材の育成について詳しく解説。第1回目となる本稿では、既存IT部門への具体的な育成方法について、実際に企業で行われた事例を踏まえて紹介します。

なぜIT部門に「超上流工程」のスキルが求められるのか

 多くの企業が中期経営計画において、テクノロジーを活用した成長シナリオを描く昨今、こうしたシナリオには業界ごとの競合の動きや社会の変化が強く反映されていると感じます。企業間の競争に打ち勝つためにテクノロジーを活用し、業界の垣根を越えたサービスを展開するケースは枚挙に暇がありません。

 たとえば、米国のテクノロジー企業であるAppleは2023年4月、Apple Card(アップルカード)と呼ばれるクレジットカードを保有するユーザーに向けて年4.15%という高い利率の預金サービスを開始しました。技術力と顧客基盤に裏打ちされた世界最高レベルのブランド力を持つ異業種プレーヤーが、銀行サービスに参入したことが大きなニュースとなったことは記憶に新しいでしょう。日本においては、顧客とのタッチポイントが強みである通信キャリアのほか、小売ビジネスや航空ビジネスの事業者などが金融サービスへ参入しています。こうした異業種からの参入が多くなっている背景には、スマートフォンやアップルウォッチなどのデジタルデバイスを活用した決済の多様化や、BaaS(Banking as a Service)のようにテクノロジーを活用したサービスの多様化があります。

 皆さんの企業でも、このように競争環境や社会の変化を捉え、適応していくために「変革」が求められているのではないでしょうか。とはいえ、企業のチャレンジが大きくなればなるほど、それを支える各部門の負担も大きくなることは想像に難くありません。特に、IT部門・DX推進部門などテクノロジー関連部門の負担は増大する一方でしょう。

事業企画の初期段階から“テクノロジー”を取り入れる

 今、IT部門には「ビジネスの目的を考える役割」が求められています。これまで要件定義以降を主に担当していたIT部門は、業務要件どころかビジネス全体を考慮する必要があるということです。もう少し詳しく説明していきます。

 企業では経営方針に沿った様々な取り組みが実施されます。こうした取り組みが新規事業の創出、あるいは既存事業の高度化に関するものだとしても、ビジネスに与える影響を考慮したり、業務プロセスを設計したりすることは欠かせません。そして、企画としてまとめ上げるには費用対効果(ROI:Return On Investment)の算出が不可欠です。

 これらを検討することは事業収益を考えることそのものですので、大部分は事業部門側の仕事になります。そのため、これまではビジネス課題の設定、解決策の検討、KPIの設定とシミュレーションは事業部門側に委ね、業務要件定義やIT要件定義の段階からIT部門が支援を強めていくといった業務分担がオーソドックスな形でした。しかし、昨今は生成AIやクラウドなどテクノロジーのトレンドを掴み、テクノロジーありきで事業を進めることが重要視されているため、ビジネスに詳しい事業部門とテクノロジーに詳しいIT部門が、企画の段階から協力して進めることが求められているのです。このように、要件定義より前段階の工程、言い換えれば「超上流工程」からプロジェクトを推進する人材をどう増やすべきか、対策を検討する企業が増えていると言えます。

IT部門に求められる新職種「ビジネスアーキテクト」

 IT部門に求められているスキルについて詳しく見ていきましょう。経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が公開している「デジタルスキル標準」では、DXを推進する主な人材として、「ビジネスアーキテクト」「 デザイナー」「データサイエンティスト」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」と呼ばれる5つの人材類型が定義されています。これら5つの人材類型に求められるものとして、ビジネスアナリシス、システムエンジニアリング、エンタプライズアーキテクチャ、プロジェクトマネジメントなどのスキルが細かく定義されています。

デジタルスキル標準ver.1.1」20ページより引用
【画像クリックで拡大】

 このうち、超上流工程での対応が求められているのが「ビジネスアーキテクト」です。ビジネスアーキテクトは「DXの取組み(新規事業開発/既存事業の高度化/社内業務の高度化・効率化)において、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材[1]」と定義されています。このビジネスアーキテクトの役割をさらに区分し、必要なロールとして定義されているのが「新規事業開発」「既存事業の高度化」「社内業務の高度化・効率化」の3つです。これらは、目的を定めてリーダーシップを発揮し、目的を実現するという役割は共通しており、その対象となる目的がそれぞれ異なるものとして整理されています。

 筆者自身もパーソルイノベーションにて新規事業の企画開発を推し進めてきた中で、多くの関係者と調整しながらビジネスを立ち上げてきた経験があります。こうした過程においてリーダーシップが求められるシーンが幾度となくあったため、このビジネスアーキテクトの重要性を強く実感しています。

 ただ同時に、この役割をIT部門が担うことの苦労も想像に難くありません。筆者がこれまで関わった企業の例を振り返ってみても、「ビジネスアーキテクトのような動きをしたいが思うようにいかない」といった課題を抱えるIT部門は多いと感じます。具体的にIT部門でどのような問題が生じているのか、課題の傾向を考えてみましょう。

[1] 『デジタルスキル標準ver.1.1』30ページより引用(2023年8月、経済産業省/IPA)

次のページ
最低限の業務を、最低限の人数で回すIT部門の現状

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この記事の著者

柿内 秀賢(カキウチ ヒデヨシ)

パーソルイノベーション株式会社 Reskilling Camp Company代表。パーソルイノベーション株式会社にてラーニング関連事業の事業開発責任者として法人向けリスキリング支援サービス『Reskilling Camp』を企画/立ち上げを経て現在に至る。自身も人材紹介事業の営業部長から、オープン...

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