宇宙領域に参入する企業は増加、将来的な成長が期待される
NRIは、2024年3月21日に『ITロードマップ2024年版』(東洋経済新報社)をテーマにした「NRIメディアフォーラム」を実施。宇宙ビジネスを支える「スペーステック」と、リスキリングを支えるデジタルツール「スキル・インテリジェンス」に着目して解説が行われた。
宇宙開発への関心が高まる中、民間企業の参加が活発化している。NRI IT基盤技術戦略室 エキスパートリサーチャーの藤吉栄二氏は、その実例として米国のインテュイティブ・マシーンズ社による無人着陸船の月面着陸、日本のアストラスケール社による宇宙ゴミ除去研究などを挙げた。
現在、宇宙関連事業には政府支出に加えて、商社や不動産、金融機関、製造業など様々な業界からの参入が見られる。宇宙ビジネスの市場規模に関して、モルガン・スタンレーなど複数の調査会社や金融機関は、2040年のグローバル市場規模は1兆ドルと評価しており、日本でも市場拡大が予測される注目の事業領域だ。
現状の宇宙ビジネスでは地上設備や通信サービス、政府予算による事業を中心として成立しているが、将来は太陽光発電や宇宙物流などが市場を牽引していくと藤吉氏。まさに今後の宇宙ビジネスの成長を左右するとして、多大な関心を集めている。
では、現状の宇宙ビジネスはどうか。たとえば、宇宙探査の領域は、月面・宇宙探索の領域と地球周回軌道の領域に大別されるが、前者では主に国や学術機関がサイエンスミッションを主導している。一方、民間企業の参入が活発なのは地球周回軌道の領域だ。データ解析や衛星運用、観測衛星、通信、実験サポート、軌道上サービス、ロケット輸送……多岐にわたる事業進出を試みている。
また、ロケット打ち上げ数も増加しており、2023年は200回以上を記録した。イーロン・マスク率いるSpaceX社は96回も打ち上げを実施しており、2024年には150回が予定されているという。他にも同社では、人工衛星のライドシェアビジネスへの展開などを公表しており、既に利用者がWebサイト上で衛星軌道や費用を確認できるまでに整備されている。
また、SpaceX傘下のStarlinkは5,000基以上の人工衛星を打ち上げ済だ。地表に近い低軌道(高度約2000km)衛星のため、地表の精細な撮影、通信遅延の低減、1基あたりのコスト低減などが特徴と言えるだろう。このように人工衛星は通信だけでなく、観測へも応用されている。たとえば、光学センサーを用いて青天時に地表の様子や温度を観測できるだけでなく、マイクロ波センサーでは天候に問わず地表の変化や降水、海面温度、風量なども観測可能だ。
現在、国際紛争などで地政学的リスクが高まっている背景からも、国境のない宇宙からの観測データには高い関心が寄せられている。実際、民間企業が衛星運用の分野に参入してSaaS型のビジネスを展開する動きも活発だ。地上局の空き時間を他社に貸し出す「アンテナシェアリング」の領域では、インフォステラ社、Leaf Space社などが参入している。また、フルマネージドサービスとして、地上局による衛星データの受信から解析、クラウド保存までをワンストップで提供するサービスにMicrosoft、Amazon Web Servicesなどが参入した。
ただし、こうした事業進出の裏では、買収合併や事業売却が頻繁に行われている。宇宙関連ビジネスで上場した企業は、上場後に株価が低迷することも多く、有望顧客を見つけることこそがビジネス上の重要なミッションと言える状況だ。さらに、打ち上げ失敗による事業停止や経営破綻に陥る企業も少なくない。