イスラエル・ハマス間でのサイバー戦の様相
2023年10月7日に、パレスチナを活動拠点とする武装勢力ハマスがイスラエルを奇襲攻撃したことで始まったイスラエル・パレスチナ紛争。奇襲攻撃が行われた日の早朝、ハマスはイスラエルに対して少なくとも3,000発以上のロケット弾を発射した。
この攻撃によるイスラエル側の死者は、民間人を合わせて約1,200人とされる。イスラエル国内の総人口約940万人に対する死者の割合を日本の人口に換算すると、日本の総人口1億2,500万人に対して約1万5,000人に相当する数になる。この数字は東日本大震災の死者数とほぼ同じであり、極めてインパクトの大きい攻撃だったといえる。
現在も両陣営による戦闘は継続中だが、こうした状況を踏まえ、認知戦および各アクターの行動の意図という観点で、日本サイバーディフェンスの佐々木氏は現在の情勢を軍事ジャーナリストの黒井氏に聞いた。
黒井氏はまず、ハマスについて「元々サイバー空間における戦いはそれほど得意ではなかった」と説明。ただし、いくつかのサイバー民兵やハッキンググループを有しており、これまでもイスラエルの企業や関係者などに対して、フィッシングを中心に情報を盗むハッキング活動はしていたという。
「イスラエルの人たちも皆さんと同じくSNSやマッチングアプリをよく使いますので、攻撃者はそこに偽のアバターを作って接近し、ハニートラップを仕掛けていました。これは、主にイスラエルの兵士のスマートフォンにウイルスを仕込むことを狙ったものです。ただ、今回のテロの直前には、ハマス側に特に目立った動きはありませんでした。奇襲を成功させるために、動きを秘匿していたと考えられます」(黒井氏)
イスラエル側はパレスチナにあるハマスの拠点を把握していたため、テロが起こって間もなく、多くの拠点がイスラエル軍の報復攻撃によって破壊された。そのためか、ハマスのハッカーグループによるサイバー認知戦も現在は止まっている状況だという(2024年3月13日時点)。黒井氏はこれについて、「ハマス自体にはもうサイバー攻撃をする余裕がそれほどなく、サイバー戦が成り立たなくなっているとも考えられる」と指摘した。