「クライアントゼロ」をキーワードに進める社内のDX
現在、NECが進めている2025年度末を最終年度とする「2025中期計画」の中核に据えているのが「社内のDX」「お客様のDX」「社会のDX」の3つのDXだ。中でも、社内のDXは「クライアントゼロ」をキーワードに、NEC自身が0番目の顧客になり、CIOがプロジェクトオーナーとして進めるものになる。社内のDXで獲得した知見を「お客様のDX」「社会のDX」に還元していく構想を描いており、ITと業務が一体的に変革を進める体制で取り組んでいる。
社内のDXのルーツは、2008年に始まったグローバルシステム基盤構築にある。SAPを導入しての基幹システムの統一を出発点とし、シェアードサービスセンターの設立やデータ基盤の構築にも取り組んできた。中田氏は「内部統制強化、決算発表日程短縮、TCO低減、間接部門の費用低減の成果を得られたものの、一部に課題が残った」と指摘する。その課題の解決を目的に経営陣のコミットメントを伴うDXに着手したのが2018年のことだ。現在は、2021年4月にCEOに着任した森田隆之氏が同年5月に発表した「2025中期経営計画」の下、社内のDXを進めている。
社内のDXの取り組みのテーマは「全社エクスペリエンス変革」で、施策の数々は「働き方のDX」「営業・基幹業務のDX」「運用のDX」の3つに整理できる。この中でもデータドリブン経営を支えるのが「営業・基幹業務のDX」で、基幹システムの中核的存在がSAP製品になる。最初にSAP ERPを導入した2008年当時のアーキテクチャーはオンプレミスであった。その後、2010年の稼働開始を経て、データ処理を高速化するためにSAP HANAを導入、AWSへのクラウドリフト、NECグループは最新のテクノロジーを取り入れてきた。現在はデータドリブン経営の実現に向けた次世代デジタル経営基盤の構築を視野に、SAP ERPのクラウド移行を進めている。
CEOの森田氏がCFO時代から問題視した空白のプロセス
2008年に基幹システムをSAPに統一し、受注以降のプロセスとシステムの分断は解消された。中田氏は「残った課題の中でも、当時CFOで現在CEOの森田氏が最も問題視したのが、商談機会の発生から受注に至るプロセス(Opportunity to Order:O2O)の統制が不十分であったことだった」と振り返る。O2OプロセスはSalesforceがサポートする商談化プロセスと、SAPがサポートする受注後のプロセスの間に位置するもので、商談見積時にプライシングする上で全社統一のルールやプロセスがなくシステムのサポートもないため、営業がほぼ手作業で実行しなくてはならなかった業務になる。当然、可視化もされていない状況であった。
そのシステム化にあたって最初に実施したことは、「NECの提供価値の単位」、「取引の単位」、「プライシングルール」を定義することであった。
NECグループの事業内容はITサービス事業から、通信、航空宇宙、防衛に関わる社会インフラ事業、グリーン・カーボンニュートラル事業、ヘルスケア・ライフサイエンス事業まで幅広い。ITサービス事業が扱う商材だけでも、システム機器から、ソフトウェア、SIまで多岐にわたる。
このプロセスを営業個人任せにしていると、本来はハード、ソフト、サービスと詳細な品目単位で見積もるべきところを、「〇〇システム一式」で見積もることができてしまう。これではビジネスの意思決定を正しく行うことができない。これを踏まえて、NECはグループの収益認識単位の見直し、約140のプロセスの標準化を実施し、現在は一気通貫でのプロセスの可視化を実現させている。
O2Oプロセスのデジタル化は、SAP Business Technology Platform(BTP)を使ってSAP ERPを拡張し、承認ワークフローはServiceNowを使い構築した。2023年5月にリリースし、すでに安定運用に入った。加えて、データ活用のために「One NEC Dataプラットフォーム」を構築し、様々なデータソースから意思決定に必要なデータを集約し、Tableauで可視化できるようにもしている。中田氏は「ダッシュボードはCxO1人ひとりに合わせて用意し、インサイトを得て戦略や施策の見直しなど、早い段階から打ち手を講じられるようにした」と語った。