ビジネス変化とともに運用も“進化”すべき
本連載では、ビジネス変革にともなうIT運用現場の課題と、それらを解決するためのモダナイズのアプローチに焦点を当てます。運用の複雑化、サイロ化の解消、そしてグローバルなガバナンスの確立など、現代のIT運用が直面する主要な課題を探り、運用のモダナイズを実現するための具体的な手法と事例を紹介します。
クラウドネイティブ技術の活用、SRE(Site Reliability Engineering)の導入、クラウドCoE(Center of Excellence)の取り組みなど、IT運用現場が直面する課題を解決するためのアプローチは数多くありますが、実際にはどのように適用されているでしょうか。運用のモダナイズは技術的な側面だけでなく、組織文化やプロセスの変革も含みます。この連載では、成功させるための組織文化の変革やチームのスキルアップ、そしてプロセスの最適化についても探ります。
運用現場は、ビジネスの変革とともに進化する必要があります。クラウド技術の導入、アプリケーションの更新、そして新しい運用手法の採用は、企業が市場で競争力を維持するために不可欠です。運用のモダナイズは、ビジネスの成長と競争力を支えるための重要なステップと言えるでしょう。しかし、これらの変革は運用現場にとって大きな挑戦を意味します。この連載を通じて、読者の皆様が運用のモダナイズに関する洞察を深め、実際のビジネス環境での適用を検討するきっかけとなることを願っています。
なぜ今、運用のモダナイズが必要なのか?
システムは1950年代にメインフレームが登場しました。1980年代には、オープン化が始まり、2000年代には、サーバーの仮想化が進みました。そして、2010年代はクラウドが急激に普及し、2020年代はコンテナやサーバーレスを活用する企業も増えてきています。ただし、各システムは新しいシステムへ置き換わるわけではなく積み重なっており、これらすべてのシステムを運用されている企業が多くいらっしゃいます。
以前はシステムを利用するのは社内が主体で、安定稼働に着目していればよい時代でした。現在では、社外を含む多数の利用者に向けて、新機能や新しい価値を高速にリリースし続けることが求められる時代に変わりました。ITシステムがビジネスインパクトへ直結する時代になり、爆発的な管理対象の増加や開発スピードの加速によって、IT運用の現場は常に手一杯の状態にあります。
オンプレミス、クラウド、クラウドネイティブ、SaaSなど、特性に応じたインフラ選択も重要になってきました。企業特性や業務ごとに適したインフラは千差万別で、一概に何が正解ということではなく、それぞれの特性を理解し、適したインフラに載せていく、という流れが主流です。しかし、限られたIT予算の中で、ビジネスに寄与する投資を優先的に実施する以上、塩漬けになった古いシステムが運用対象として残っている現場も多くあります。この構図において、現場はそれぞれ特性に応じた運用を継続する必要があり、悩みが尽きることはありません。
複雑化した業務フローゆえに障害発生時の問題特定に時間がかかり、クラウドやコンテナの活用促進により、アプリの問題かインフラの問題か、無実を証明するための時間を多く取られている現場も多くあります。また、管理対象が増大したために、監視対象も複雑化し、IT部門が主導して障害発見から回復をリードできなくなっている事案や、既存システムのコスト削減やスキルの属人化により、担当者の離任がサービスレベルの低下に直結する現場も、よくある困り事としてお聞きします。
昨今では、データ活用の話題が多く出てきています。監査対応でのデータ長期保管、災害対策でのデータ遠隔地保管を実施されているケースはあれど、ストレージの老朽化対応やデータ量増大によるストレージ投資、またサイバー攻撃によるセキュリティインシデントを考慮し、データの配置や取扱を今後どうすべきか、またデータをどう経営に活用すべきか、悩まれているケースも少なくないでしょう。
さらに、日本全体を取り巻く人材不足の荒波は高くなる一方で、ただでさえ新卒・中途問わず人材の確保が困難な上、入社後にキャリアアップを求めて数年で退社してしまうケースも多くあります。また、人材のリテラシー向上を含めたリスキリングに取り組む企業もありますが、新たな企画や開発に関心が高い傾向があり、運用に関心を抱く人材は少ないのが現状です。
このような悩みを抱えている中で、企業の収益を下支えする安定稼働と、新たな収益を生み出すデジタル変革と、両利きの経営が求められる現代では、自律的かつ継続的に進化し続けるサステナブルでレジリエントなIT運用が必須であり、この進化の鍵が運用のモダナイズである、と私どもは考えています。