伝統と革新が交差する古河電工グループ
古河グループは1884年の銅山経営に始まり、1896年には日本の電線製造の先駆けとなる電線事業を開始した。その中で古河電気工業(以下、古河電工)は、富士電機や富士通、古河機械金属、横浜ゴムなど51社で構成される任意団体「古河三水会」の源流企業の一つである。
古河電工グループは2024年5月、パーパス「『づづく』をつくり、世界を明るくする。」を制定した。また、「古河電工グループ ビジョン2030」では、情報・エネルギー・モビリティが融合した社会基盤の創造を通じて、地球環境保護と安全・安心・快適な生活の実現を目指すことが掲げられている。
同グループは、2024年3月末時点で124社を擁し、連結売上高は1兆565億円、従業員数は5万2757名を数える。日本を中心に、世界中で事業を展開中だ。
古河電工は、メタル、ポリマー、フォトニクス、高周波という4つのコア技術を基盤に、「インフラ」「電装エレクトロニクス」「機能製品」の3セグメントで事業を展開している。インフラセグメントでは電力ケーブルと光ファイバー・ケーブル、電装エレクトロニクスセグメントでは自動車配線や電子部品材料、機能製品セグメントでは放熱・冷却ソリューションなどを手がける。特に近年では、データセンター需要の増加を追い風に、機能製品セグメントの成長が期待されているという。
「ものづくり、高速経営、コトづくり」でDXを推進
野村剛彦氏は、化合物半導体のエンジニアからキャリアをスタートし、2017年には研究開発本部先端技術研究所解析技術センターのセンター長に就任。そこで、先端分析やAI/IoTなど、基盤技術の社内展開を統括した。その後、AI/IoT部門が独立して戦略本部に移管されると、2023年には情報システム部門と融合してデジタルトランスフォーメーション&イノベーションセンター(DXIC)が設立され、野村氏は初代センター長に就任した。
DXICは、古河電工グループのデジタル技術強化の中核組織として、SDGsの達成と社会課題の解決を目指す組織だ。その前身は、2020年4月に研究開発本部内に設立された「デジタルイノベーションセンター」で、AI/IoTの基盤技術強化とデジタル技術の製造現場への実装を推進していた。2022年4月に行われた戦略本部への移管で、DX起案機能が強化され、2023年4月にAI/IoT部門とICT部門を統合して現在の形となった。
「DXICは、研究開発部門から発展したAIソリューション部門、ものづくりDXの企画立案部門、経理や販売生産システムなどのコーポレート改革推進部門、そしてITインフラとガバナンス・人材育成を担当する部門によって構成されています」(野村氏)
続いて野村氏は、ものづくりDXに関するIT分野の課題について話した。古河電工は2023年6月に経済産業省のDX認定事業者となったが、今は「全社戦略の中でDXを持続的に実施する『レベル4』」を目指しているとのことだ。
現状、同社が抱えている課題は、工場システムの老朽化や製造現場でのデジタル活用の遅れ、グループ会社間でのシステムやセキュリティの不統一、そしてDXを支える組織のスキル不足だという。これらに対応するため、システムの標準化・近代化、データの蓄積、ガバナンス・組織の強化を進めている。
そしてグループビジョン2030の実現に向け、DXを「ものづくり、高速経営、コトづくり」の3つの領域で推進している。「ものづくりDX」では人材育成を含めた製造現場の革新を、「高速経営」では実績把握とフォアキャストによる経営判断の迅速化を目指す。この2つは、いわゆる既存領域の変革に当たり、野村氏はこれらを“守りのDX”と位置付ける。
一方、「コトづくりDX」の領域は、営業統括本部ソーシャルデザイン(SD)統括部などの組織が担当し、サービス・メンテナンス分野への新規事業展開を図る“攻めのDX”として、それぞれの専門チームが最適化を進めているという。