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生成AIを「全庁導入」した長崎県西海市──地方自治体に迫る2040年問題、解決のアプローチを訊く

「全員が使えること」をゴールに西海市が進めた施策 あえてスモールスタートを選択しなかった理由とは

 長崎県西海市役所は、西海クリエイティブカンパニーの自治体向け生成AIサービス「ばりぐっどくん」を全庁導入している。導入開始から2ヵ月で職員の57%がAIにログインし、うち87%が利用を継続。職員1人当たり平均12分/日の時間削減効果を実現した。今回は、西海市役所 さいかい力創造部の熊本英哲氏と、西海クリエイティブカンパニー VPoEの星野美緒氏にインタビュー。時間削減成功の背景と今後の展望を訊いた。

目前に迫る2040年問題 西海市ではDX推進班を新設

 長崎県西海市は、自治体向け生成AIサービス「ばりぐっどくん」を全庁導入。その取り組みについて、EnterpriseZineの読者からも多くの関心が寄せられている。

 長崎県西海市は、長崎市と佐世保市の中間に位置する、人口約2万5000人の自治体だ。2005年4月に5町の合併によって誕生し、来年は市制施行20年を迎える。行政区域は241平方キロメートルと広大だ。

 人口減少は地方自治体に共通する課題だが、西海市でも同様だ。合併当初約3万4000人だった人口は、直近20年間で約9,000人減少し、2040年の将来推計人口では1万7000人程度にまで減ると予想されている。

 「2040年問題で、労働需給ギャップは1100万人の需要超過が見込まれています。行政職員数も半減する見込みです。災害対策、交通・物流、地域医療の確保、公共施設の維持などといった従来からの課題に加え、行政サービスに対するニーズの多様化、複雑化、高度化にも対応していかなければなりません」と現状を語るのは、西海市役所 さいかい力創造部情報推進課 DX推進班 課長補佐の熊本英哲氏だ。

 熊本氏が所属するさいかい力創造部は、2010年の組織改編で旧企画振興部から名称を変更。当初の所管事務は政策企画やまちづくりがメインだったが、その後、企業誘致・新エネルギー・地方創生・定住政策と徐々にその所管範囲を広げ、市の重要施策を担う基幹部署になっている。2022年4月には行政サービスの質の維持向上を目指し、DX推進班も新設した。

地元企業の生成AI「ばりぐっどくん」を採用

 西海市ではDX推進の一環として、2023年秋から市役所業務において生成AI「ばりぐっどくん」の実証実験を開始。同サービスを開発したのは、同市に本社を置く西海クリエイティブカンパニーだ。地域商社として2017年に設立され、商品開発や販促から事業としていたが、数年前からアプリケーションやAI開発へシフト。同社 VPoEの星野美緒氏は「西海市は地理的なハンディがある分、大都市に比べてITで業務を効率化できる余地が多いと考えています」と語る。

株式会社西海クリエイティブカンパニー VPoE 星野美緒氏

 また、自治体などの公共機関が生成AIを導入する際、ハードルになりやすいのがセキュリティだ。西海市でも選定にあたりセキュリティは重視したそうで、ばりぐっどくん導入の決め手の1つに、「行政ネットワークLGWANへ対応している」ことがあったという。検討当時、LGWANに対応している生成AIツールは限られていたと星野氏は振り返る。

 同サービスは、政府が示すセキュリティ要件を満たすことで付与される「ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)」の認証を受けている環境にバックエンドシステムを構築し、会社としてもISMS認証を取得。ビジネス版LINE「LINE WORKS」やノーコード・ローコードツール「kintone」など、セキュリティが担保された既存のプラットフォーム上で動作するのが特徴だ。

 「約款型外部サービスをそのまま使うと、作業のログを取ることが難しく、また、入力した情報が学習データに使われないようにする対策も必要です。職員のリテラシーには差がありますから、使い慣れたプラットフォーム上で利用できるのはリスクヘッジの点からも好ましいことでした」(熊本氏)

次のページ
スモールスタートではなく全庁一斉に その経緯とは

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この記事の著者

古屋 江美子(フルヤ エミコ)

フリーランスライター。大阪大学基礎工学部卒。大手通信会社の情報システム部に約6年勤務し、顧客管理システムの運用・開発に従事したのち、ライターへ転身。IT・旅行・グルメを中心に、さまざまな媒体や企業サイトで執筆しています。Webサイト:https://emikofuruya.com

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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