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5年で13の製品設計システムを統合したワコール “完全内製”で川上から川下までをつなぐモノづくり変革

各ブランドの独自性を活かしつつ業務を統一、成果を推進リーダーに訊く

3フェーズに分けて行われた大規模システム刷新

 モノづくり業務改革プロジェクトの推進にあたっては、部門責任者が参加する「改革推進会議」と現場レベルの「分科会」を設けたという。改革推進会議は、経営レベルの判断が必要な事項を検討する会議体として設け、各部門の部長以上のメンバーが参加する。一方分科会は、製品設計システム分科会とCADシステム分科会の2つのチームに分けられ、実際のプロジェクト推進に関わるデザイナーなど約20名が参加した。IT本部は、事務局としてプロジェクト全体を取りまとめる役割を担う。

モノづくり業務改革プロジェクトの推進体制図【2024年4月時点】

(ワコール提供資料をもとに編集部にて作図)
[画像クリックで拡大します]

 今回のプロジェクトでは、製品企画の担当者が用いる製品設計システムの統合と同時に、それと密接に関係するCADシステムも刷新した。ワコールでは、製品設計システムで製品の試作から製造までのプロセスを一元管理する。試作段階で試作品番や資材、製品化に必要な設計情報を入力し、それにCADデータを連携させたものを工場へ送る。工場ではそのデータをもとに試作品を作成し、企画担当者は完成した試作品の結果をシステムへ登録。そして製品が採用されると、正式な採番がなされる。システムをメインで使うのは企画部門ではあるものの、蓄積された製品の情報は、カタログを制作する担当者や店舗スタッフにとっても重要な情報となるため、材料部門や工場、店舗販売員まで、まさに川上から川下まで関係するシステムだ。

 プロジェクトは大きく3つのフェーズに分けて実施された。2018年に始まった第1フェーズでは、約2年かけて主力となるインナーウェアブランドの業務プロセスを再構築し、それをシステム化するところまでを実施。この段階で業務の整理とそれをシステムに乗せるところまでを完了させており、「3つのフェーズのうち最も多くの時間を要しました」と上田氏は話す。続く第2フェーズでは、パジャマやスポーツウェアといったインナーウェア以外の製品を対象に、1年7ヵ月の月日をかけて新システムを展開。第3フェーズでは、1年5ヵ月ほどの月日をかけ、サイズをオーダーできる製品と海外での事業分野を対象に新システムを展開させていった。こうして、2024年9月には全社への展開を完了させている。

 第1フェーズでは、まず業務を紐解くことから着手していったという。製品企画メンバーの現場に、上田氏らIT本部のメンバーが3ヵ月張り付き、日々の業務をヒアリングしながら調査。各ブランドの実態を把握するため、企画会議にも参加したという。会議の進め方、品番の決め方、データの持ち方など、各ブランドにおけるルールの違いを一つ一つ洗い出し、すべてを検討の土俵に載せていった。

 「システムを変えるだけでなく、業務プロセス自体も見直す必要があったので、システム統合のためのキー情報と業務プロセスの見直しを同時並行で進めました。この2つが固まって初めて、システム設計のスタートラインに立てました」(上田氏)

株式会社ワコール IT本部 IT企画開発部(商品企画設計チーム) 上田千絵子氏

各ブランドの“想い”をすり合わせ、納得できる形に

 こうしてようやくシステムを設計できる状態になったものの、話し合いはスムーズには進まなかった。各ブランドは、過去何十年も製品に携わってきたデザイナーたちの強い思いの上に形作られてきたため、業務を統一していくにあたっては彼らの譲れないこだわりがぶつかることが多かったのだ。上田氏は「できるだけすべてのデザイナーが納得いく案を導き出すことに一番苦労しましたし、一番時間をかけたところでした」と話す。ときには外部コンサルタントの力も借り、会議の場では言い出せない意見も拾い上げることで、落としどころを探っていったという。

 現場のデザイナーを巻き込んでいくための工夫として、上田氏は「システム統合の意義を伝え続けたこと」を挙げる。「システム統合という言葉が独り歩きしないようにしました。顧客にとって必要な製品情報を今よりもっと川下に届けていくために、川上となる設計段階から同じレベルの情報を入れる必要がある。それが結果的に顧客のメリットになるのだと丁寧に説明していきました」と話す。

 たとえば、以前は「ナチュラル」という表現一つをとっても、ブランドによって判断基準が異なるため、“ナチュラルなインナーウェア”の定義に差異があった。この状態でECサイトにて製品を販売すると、顧客がナチュラルな製品を探そうとした時、その定義の差異によって一部のブランドが表示されなくなってしまうといったことが発生する。そのため、全ブランドで統一された基準を決めることとした。たとえば「フィット感」といった定性的な情報も、材料の強度など定量的な数値に定義し直すことでデータを統一していったという。

 さらに、企画品番数の削減にも取り組み、各ブランドの方針を共有する仕組みも第1フェーズで整えた。「製品設計の業務は統一しつつも、各ブランドで大切にしている独自性は変わらないので、それを全社できちんと共有できるようにしました」と上田氏は話す。加えて、新製品の開発時において品質にこだわるがゆえに試作をつくる回数がかさんでいたため、スケジュールを管理する仕組みを作って試作回数を最適化するなど、業務の改善も行っていった。

次のページ
自社でシステムを完全内製した理由とは

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この記事の著者

古屋 江美子(フルヤ エミコ)

フリーランスライター。大阪大学基礎工学部卒。大手通信会社の情報システム部に約6年勤務し、顧客管理システムの運用・開発に従事したのち、ライターへ転身。IT・旅行・グルメを中心に、さまざまな媒体や企業サイトで執筆しています。Webサイト:https://emikofuruya.com

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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