
データ基盤とAI基盤、日本ではこの2つが別々に構築されるケースが多く、そのことがデータとAIの民主化を阻んでいる。2024年11月、都内で開催されたDatabricksの年次カンファレンス「Data + AI World Tour Tokyo 2024」で、データブリックス・ジャパン 代表取締役社長 笹俊文氏は、データとAIの民主化の実現に向けた重要なポイントの1つとして「自社のデータでモデルをトレーニングしてビジネスで成果を得る」ことを挙げた。データを利活用してモデルをリファインする“Data + AI”こそが、誰もがデータとAIの恩恵を受けられる基盤であるというのは同社が一貫して主張してきたことだが、一方で自社データをフル活用できるAIプラットフォームを構築するには、データガバナンスやセキュリティ、データの断片化といった様々なハードルが存在しており、簡単に実現できる道ではない。多くの日本企業がデータとAIの統合に悩むなか、Databricksの支援を受けて従来のデータ基盤を刷新し、わずか1年で要件定義から本番稼働までを実現したルネサス エレクトロニクスの事例が基調講演で語られたので、その概要を紹介する。
8年間で9社を買収 データ基盤が乱立状態に……
ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)とはどんな企業なのか。同社 Head of AI, Data & Analytics, Information Systems ナラキ ジョナサン氏は同社の特徴を「様々な会社を買収して成長してきたグローバルカンパニー」と表現する。もともとは日立製作所、三菱電機、NECの半導体事業が分社化し、統合された起源をもつ同社は、ものづくり企業として強力な歴史ある基盤を有している。その技術基盤をさらに成長・発展させるために同社は2017年から積極的な買収戦略を展開。Intersil、Integrated Device Technology(IDT)、Dialog Semiconductor Plc(Dialog)など多くの企業を買収し、アナログ製品のラインナップを拡充してきた。現在では自動車、産業、インフラ、IoTといった高成長市場で組込みソリューションでのグローバルリーダーシップを強化しており、世界20ヵ国以上に販売拠点をもち、日本や中国、東南アジア、米国などに13の自社生産拠点を所有、連結従業員数は約2万1000人に上る。
ルネサスのように買収を繰り返してグローバルの成長を遂げてきた企業は、各社各様で動いてきたITシステムの統合に悩まされるケースが多い。特にデータ基盤の場合はその傾向が顕著で、歴史のある企業ほどデータ基盤が乱立し、エンドユーザーのニーズに応えることが難しくなっている。
ナラキ氏は「ルネサスのデータ基盤は長年にわたり、高品質なサービスをビジネスに提供してきた。しかし、8年間で9社を買収したことでデータ基盤(BI基盤)が乱立。さらに利用者数の増加により、会社の進化に適応できるデータ基盤ではなくなってきた。ハードウェアの老朽化も激しく、データ基盤として拡張することも難しくなっていた」と話す。旧データ基盤はオンプレミスのデータウェアハウス上で数千を超えるジョブワークフローが動いており、それをベースに数千名のユーザーが利用する数百のレポート/キューブ/ダッシュボードが日々作成されていた。
また、このデータウェアハウスは30以上の上流システムと接続、数千のインタフェースが使われており、改修やメンテナンス、ガバナンスが複雑化していたことも、新しいビジネス要件への対応を難しくしていた。グローバルなエレクトロニクス企業として今後も成長していくためには新しいソリューションが必要と判断した同社は、データ基盤の刷新を図ることになる。
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五味明子(ゴミ アキコ)
IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。
Twitter(@g3akk)や自身のブログでITニュース...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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