SAS Instituteは、2025年に向けて金融業界で予想される主要なトレンドについて発表した。
SASの専門家による予測では、AIの加速が不正対策、リスク管理、顧客体験など、様々な分野における大きな進展をもたらすと見込まれているという。SASのエグゼクティブおよび専門家が、AI、データ管理、ESG、リテールメディアなどにおける来年のトレンドや変化について、13項目を予測したとのことだ。
産業化が進む中、蔓延するデジタル不正
不正も商業化が進み、社会的、経済的、技術的要因が重なる最悪の状況の中、不正はかつてないほど一般化し、犯行も容易になっているという。最近のある調査では、Z世代の42%が正当な取引に異議を唱えたことを認めたとしている。同時に、フィッシング攻撃やその他のデジタル犯罪を自動化する、低価格で簡単にアクセスできる生成AIツールの普及に後押しされ、fraud as a service(サービスとしての不正)が台頭。犯罪行為に手を出してしまうことへの障壁は、かつてないほど低くなっているという。銀行業界のリーダーは、不正防止に対する消費者の期待に応えるために、できるだけ早急に考え方を変化させ、迅速に対応する必要があるとしている。
産業界はAIのパワーに対する需要とその運用に必要なエネルギーのバランスに苦慮
産業界が高速化、自動化、生産性向上を推進するためにAIを切望する中、AIには、より高度な処理に対応するためのGPUが必要となっているという。銀行をはじめとする企業は、より多くのエネルギーを消費しながらも、自社の環境持続可能性を高め、ESG(環境・社会・ガバナンス)対策を推進しなければならないというプレッシャーに直面するパラドックスに陥っているとのことだ。IFRS第1号と第2号で義務付けられたサステナビリティ関連の開示により、地球温暖化の主な要因であるエネルギー消費に対する監視の目は厳しくなるばかりだとしている。
量子コンピューティングは、次の大きな資源需要になるという。しかし、コンピューティングに電力を供給する持続可能なエネルギー源が出現しない限り、環境規制を満たして消費者の信頼を維持するために、産業界はイノベーションを断念するしかないのだろうかと同社は述べる。
入金サポートはロボットで
ロボット・アシスタントが支店スタッフやカスタマーサービスの窓口に取って代わるようになるという。日本の小売店ではかなり前から、「3番のスクリューはどこにありますか?」といった簡単な問い合わせに対して、シンプルなロボットが使用されてきたとしている。銀行業務で使用される、よりスマートなAIドリブンのアシスタントは、まるでチャットボットのように顧客と会話でき、ATMよりも優れたガイダンスを提供してくれるようになると予測。これは、銀行にとっても顧客にとってもメリットとなるが、こうした進化には、金融機関により高いレベルのガバナンスとコントロールが求められるとのことだ。
AIやクラウドの高速化がもたらす「IT合理化の大波」
企業は長い間、異なる機能や顧客セグメントごとに独立したシステム(サイロ化したシステム)を運用してきたという。その結果、IT部門は複雑な統合作業に苦しみ、企業が必要とする機動力を提供できなくなっているとしている。今、ITインフラやベンダーとの関係を簡素化し、大幅なスピードアップとコスト削減を図る「IT合理化の大波」が迫っているという。複数の機能を推進するAIプラットフォーム上でモダナイゼーションを進める企業が、最大の価値を引き出せるだろうと同社は述べる。そうした企業はデータの統合や民主化を実現し、顧客ライフサイクルや企業全体に渡る幅広い意思決定を実現できるとしている。
AI規制はさらに複雑化
米国の様々な州や自治体が独自のAI法令を制定することが見込まれており、既に複雑な規制環境をさらに難解なものにするという。複数の州で事業を展開する企業は、不統一で多様なAI法令への対応を余儀なくされるとのことだ。グローバルに事業を展開する企業にとって、整合性のない政策により生み出される障害はより顕著なものとなると同社は述べている。
立法者がAI規制の範囲を指定しようとするとき、「AIとは何か」という様々な定義の存在が浮き彫りになるという。中には、長年使用されてきたアルゴリズムやアナリティクスも含まれることになり、コンプライアンスの徹底に対する圧力が強まるとしている。組織は、AIの新たな定義に対応する展開の特定や、迅速にガバナンス体制を整える必要に迫られるという。
データを活用できる銀行と振り回される銀行
世界の銀行業界にとって、ビッグデータは“次の石油”にも“次の大惨事”にもなり得る存在だとしている。AI導入の加速により増大し続けているデータは、チャンスをもたらすと同時に課題も突きつけてくるという。構造化データや非構造化データの膨大な蓄積が資産となるか負債となるかは、銀行がデータフレームワークやガバナンスプロセスを効果的に発展、導入できるかどうかにかかっていると同社は述べている。統一された意思決定プラットフォームの展開に向けて取り組むことで、データのサイロ化を解消し、戦略と変革を推進するための部門横断的なインサイトを得ることが可能になるとしている。
銀行に対するリスク管理の監視がさらに厳格化
米国の銀行規制当局は、近年いくつかの銀行を破綻させたアナリティクス上の失策を受け、金利リスクに関するアナリティクス要件と監視の双方を一層厳格化すると予測。たとえば、シリコンバレー銀行は高い評価を得ており、自己資本規制をすべて遵守していたが、それでも破綻したという。これは、2023年が過去最大の銀行破綻の年となった米国での5つの銀行破綻の最初の1件であり、すべては金利上昇による流動性リスクを把握できなかったことが引き金となり、引き起こされたとしている。規制当局には、より高度なリスク管理ソリューションと人的資本への投資に関する規制強化を期待していると同社は述べる。
AI活用に慎重なAMLイノベーター
マネーロンダリング対策担当者は、有効性に関する規制が明確でないため、責任あるイノベーションの実践を慎重に発展させることになるという。多くの革新的な企業は、純粋なAIベースの検知戦略のモデルガバナンスの負担を軽減するため、機械学習を適用して、既存のモニタリング戦略を調整、最適化するようになると予想されるとのことだ。
リスクとコンプライアンス分野でAIの勢いが拡大
AIはあらゆる業務を自動化する魔法の杖として過大評価されてきたが、銀行がAIで強化できる業務とできない業務を理解し始めることで、現実的な可能性が見えてくるという。特に金融企業は、適切な人間による監視を組み込み、AIを不可欠なリスク管理ツールとして確立していくと同社は述べている。また、AIの試験運用が本番稼働に移行するにつれ、効果的なAIガバナンス・フレームワークの導入が一層注力されるようになるとのことだ。
加えて、開発中や生産中のモデル数が急増する中、モデルのリスク管理はより重要視されると予測。金融サービスのリーダーたちは、データガバナンス、モデルの開発と展開、モデルガバナンスの間での収束を認識しているという。バリューチェーンに沿って複数の接点があるため、モデルガバナンスとモデルライフサイクルの境界は曖昧になっているとのことだ。企業は、モデルの検証、モデルのドキュメント化、モデルのモニタリングにおいて、効率化と自動化を向上させる方法を模索することになるという。
地球温暖化が進行中でも、銀行のESG(環境・社会・ガバナンス)への関心は後退
銀行のESGイニシアティブへの関心と投資は、具体的な価値を示すことに苦慮しているうちに薄れていくとしている。投資家の関心の低下や「グリーンウォッシュ」に対する懸念も、金融市場での関係の低下を招きます。明確な財務的利益がなければ、銀行はESGを収益ドライバーではなくコスト上の負担とみなし、規制で義務付けられたり消費者から要求されたりしない限り、成長のための戦略的優先事項ではなく、主に評判を守るためのセーフガードとしてみなすだろうと同社は述べている。
ディープフェイク対策としてのライブネスチェックの普及
不正行為者が生成AIを使って、ますます検出が困難になる音声や動画のディープフェイクを作成するようになれば、銀行の多要素デジタルID認証プロセスの一環として、ライブネステストの普及も進行するという。この技術は、写真、動画、マスクなどの虚偽表示の可能性のあるものから生身の人間を区別するために、生体サンプルを評価するもの。ライブネス検知の形態は数十年にわたって存在していたが、2025年には不正対策の最前線で次世代のライブネスチェックを積極的に採用することが、最新の不正防止技術のトレンドになるとしている。
パーソナライズされた消費者オファーと収益を生み出すリテールメディア
2025年、消費者金融は、Chase、Revolut、PayPalが確立したモデルに倣い、リテールメディアに大きく進出すると予測。質の高いファーストパーティ・データを活用してパーソナライズされたサードパーティのオファーを取り入れることで、金融企業は自社のオファーやサービスを組み合わせた顧客個人に向けてカスタマイズされたプロモーションを提供できるようになるという。これにより、顧客とのエンゲージメントが深まるだけでなく、新たな収益源が生まれ、銀行は発展を続けるリテールメディア市場において重要なプレーヤーとして位置づけられると同社は述べている。
銀行は継続する市場の不安定性に対応するためリスク管理投資を強化
市場の不安定性は2025年も続く見通しだという。銀行は、クラウドやAIの進化を活用するか、単に既存のリスクシステムを近代化することで、リスク管理への継続的な投資を行うだろうと同社は述べる。現在の金利リスクと流動性リスクは急速に変化する可能性があるため、資産負債管理能力が特に重要視されることになるという。より急速に変化する状況下では、リスクのインパクトや種類と財務指標との間における相関関係を素早く予測するために、よりタイムリーなリスク分析が必要だとしている。また、バランスシート全体のリスクをより包括的に把握するために、統合能力の強化も求められるとのことだ。
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