大幅赤字から一転、成長に転じた日立の「SX」の軌跡
日立のサステナビリティの取り組み経緯についても触れておこう。同社がサステナビリティに本格的に力を入れるようになったのは2017年からだ。
その前に大きな節目があった。日立は2008年のリーマンショックで多額の赤字を計上し、経営危機に陥った。そこから「データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現する」ことを掲げ、いくつかの中期経営計画を重ねながら事業ポートフォリオをかなり入れ替えてきた。そして再編のめどがついた2019年には成長フェーズへと転化。
再編の過程となる2017年、増田氏は事業部門から本社に異動となり、当時の上司とともに中西宏明氏(当時の取締役会長)と話す機会があったという。中西氏は、日立には単年度の事業戦略や3ヵ年の中期経営計画はあるが、サステナビリティの長期計画がないことを挙げ、増田氏らに長期のサステナブル戦略を考えるように命じたという。とっかかりとして中西氏は「SDGsにある目標とターゲットが、日立のどの事業にどういう形で刺さっているか。刺さってなくてもビジネスチャンスはあるかもしれないから、関連性を調べたらどうか」とアドバイスしたという。
そこから、たとえば「スマート工場事業なら社会課題をこういう形で解決します」という具合にあらゆる事業部門と相談して「日立SDGsレポート」としてまとめた。その後、社会環境価値の可視化、海外のサステナブル先進企業との対話など発展していった。増田氏は「2017年に中西がトリガーを引いて日立のサステナビリティ戦略が本格的に立ち上がりました。日立のサステナビリティがうまくいっているとするなら、2017年の中西の指示が大きかったのだと思います」と振り返る。
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繰り返しになるがSXは経営戦略なので、トップダウンが大前提となる。加えて日立では「ミドルアップダウンがある」と増田氏は言う。本部長や部長クラスのミドル層がトップの意向を部下に展開する。あるいはボトム(部下や現場)の問題を吸い上げて然るべきところに渡していく。「こうしたミドルがアップ・ダウンでワークすることがすごく大事」と増田氏。
直近では、2023年から役員報酬にサステナビリティのインセンティブを組み込むようになった。たとえば、温室効果ガス削減目標を達成したとか、従業員エンゲージメントサーベイのスコアなどをサステナビリティの指針として評価していくという。これによってサステナブル経営を進化させることを狙っている。
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今後の展望について、増田氏は中期経営計画に掲げた「プラネタリーバウンダリー」と「ウェルビーイング」をキーワードに挙げる。前者は「地球を守る・社会を維持する」と社会に目を向け、後者は「一人一人が快適で活躍できる社会」と人々に目を向けているというコンセプトだ。増田氏は「個人的にはこの2つの考え方を押さえ、時代に合わせてどういう事業ポートフォリオがあるのかを考えていくことになるのではと思う」と話す。
もう1つは日立のコアコンピタンスとなる、OTとITとプロダクトの組み合わせをベースとして「環境と人々との生活のために、豊かなものを作るには、社内のポートフォリオはどうあるべきか考え、変えていくことになるでしょう」と増田氏。
最後にIT関係者に向けて、増田氏は「SX by DX、GX by DXとあるように、サステナビリティを加速させて実現するなら、企業にあるデータをどういう形で組み上げ、解析して企業経営に上げていくかが成功のための生命線の一つになると思います。データあってこその人材戦略、財務戦略、研究開発の成果ですから、すべてコアとなるのはデータです。そのデータをハンドリングしているIT部門は重要な役割を担っています」とエールを送った。