OCR×生成AIのハイブリッド活用、データ抽出の精度向上
伊藤氏が基調講演で示した成果の「75%の自動化」は、人間の年間平均業務量を2,000時間とすると、600万時間以上、3,000人以上の仕事を自動化した計算になる。これはIntelligent Automationの成果だが、SMBCグループはAgentic Automationに挑戦し、自動化レベルを現在の75%から90%まで高める取り組みを進めようとしている。その対象は、請求書類に基づき、支払い依頼を作る申請者、その申請依頼を受け取った経理が、勘定科目の選択、納税時の税務区分の設定、固定資産の法定耐用年数の登録を行うまでの一連のプロセスである。
山本氏が考えるポイントは2つある。まず、1つは申請者がいかに楽に手続きができるかだ。現時点のSMBCグループでは、すべての取引がデジタル化されているわけではない。そのため、紙で送られてくる請求書類をいかに迅速かつ正確にデジタル化するかが、申請者の負担を減らすことと直結する。
そこで、山本氏らは、OCRと生成AIのハイブリッド活用による3段階でデジタル化するアプローチを採用した。
- 第1段階: 社内規程やマニュアルに記載されているルールを基に導出
- 第2段階: 生成AIの出力結果を過去データに突き合わせ、完全一致の組み合わせが複数出てきた場合にその組み合わせを採用
- 第3段階: 確からしい結果が得られない場合は、人間が確認し正しいものを選択
書類内のデータはすべてOCRで読み込ませる。ただし、請求書の社名に押印が重なっているなど、正しく読み取れない場合がある。その場合、社名であれば、登録事業者番号や口座情報を使えば、特定は可能だ。つまり、すべてをOCRに依存するのではなく、生成AIを併用する現実的なアプローチとして採用したのがハイブリッド活用となるのである。
山本氏によれば、現時点ですでに96%の識字率を達成しているという。特に、正確な読み取りをしようと、こだわっているのが「口座番号」「法人番号(13桁)」「合計金額」の3つの数字になる。「生成AIのモデルに既存のデータを学習させることで、新しいデータを読み込ませた時、正しいデータを導出できるのではないか。申請者が何も意識しなくても正しいデータを得られ、確認だけで次のステップに進めるようにしたい」と山本氏は説明した。
自動化の範囲を海外拠点に順次展開
もう1つのポイントは、専門知識を生成AIに集約し、グループの生産性を向上させることだ。SMBCグループの経理には、約400の勘定科目、約550の税務区分、約350の固定資産項目の法定耐用年数の中から、迅速かつ正確に1つを選ぶ処理が求められている。個人の知識と経験の蓄積がものを言う職人技とはいえ、その知識は各種会計規則や規制当局の指導に基づくものだ。むしろ、生成AIで3つを自動的に選択してもらう方が経理にとって望ましい。
現在の生成AIによる出力精度は、税務区分で72%、法定耐用年数で88%まで到達した。だが、山本氏は「仮に99%正しい選択ができたとしても、1%のミスがある限り、チェック作業からは解放されない」と指摘し、導出ロジックを洗練させる取り組みを続けていると説明した。この精度を高め、人間がやっていたことをAIに置き換え、人間にはもっと生産的な業務に集中してもらう。これが2025年の実現を目指し、SMBCグループが取り組んでいることだ。
今後に向けては、この取り組みをグローバルに拡大することを視野に入れる。ビジネス環境が非常に早いスピードで変化する中、50~100年後にSMBCグループが市場での競争に勝ち残ることができるか。経営陣を初め、皆が強い危機感を共有しているからこそ、グローバルで各拠点の財務状況をリアルタイムに理解する仕組みが必要になる。その第一歩が、各拠点の総勘定元帳を、Oracle Financial Consolidation and Close Cloud Service(FCCS)を使って集約することだという。これは財務統合と決算プロセスを効率化するソリューションで、まずは日米の10拠点の統合から始め、続いてEMEA、APACの統合を実現する計画を描く。
他の自動化の取り組みと同様に、このソリューション導入には、手作業に依存していた報告に関する作業時間を、もっと重要な意思決定のために振り向けてもらう狙いがある。さらに、それがグローバルでの経営管理の高度化につながるという期待もある。「今はこの状況だが、将来はOracleのAIエージェントを活用する場面も出てくると考えている。『業績数値の即時把握』『高度で正確なアセット管理』の2つで、グループ経営の進化と競争力強化につなげたい」と山本氏は今後の展望を語った。