約90%が標準機能──アドオン最小化で挑んだフルスケールERP導入の挑戦
ENEOSがCoMPASSの構築で導入したモジュールは、SD(販売管理)から、MM(在庫購買管理)、FI(財務会計)、CO(管理会計)、BPC(予算管理)、IM(設備予算管理)、PS(プロジェクト管理)、PM(設備保全)、PP(生産管理)、そして石油業界向けソリューションのIS-OILまで多岐にわたる。

2017年から始まったプロジェクトでは「Fit to Standard」を掲げ、アドオン比率を極力抑える方針を採った。SAPの標準プロセスを利用している割合は約90%。鳥居雅氏は、「自動配車や計画配送のようなSAPがサポートしていないプロセスは、SAP内に作り込むのではなく、SAPの外側に拡張することにした」と話す。例えば、燃料油と潤滑油の一部は、受注から配車、出荷までの処理を外側の販売物流システムで行う。一方、化学品は受注から全てSAPで完結できるといった具合だ。
2021年7月に稼働開始に漕ぎつけることができたものの、安定稼働が可能になったのは2022年半ばのことだ。名代淳氏も「2社の業務プロセスの統合を同時に進めながら、ほぼフルモジュールでS/4HANAを新規導入したわけで、プロジェクトの難易度は高い。しかもアドオン開発をほとんどしない導入とあってさらに難しいプロジェクトだった」と、早くからプロジェクトに関与していたからこその見方を示した。
田中氏が2022年4月にIT戦略部に着任したタイミングで、プロジェクトの再検証を行う。プロジェクト自体は予定よりも長期化したとはいえ成功しているので、失敗の検証ではない。「反省会」と田中氏が言うように、導入パートナーにも参加してもらい、何が原因でプロジェクトが困難に陥ったのか、その分析から得た知見を方法論に落とし込もうと考えた。
その結果を、田中氏は「複合要因」と指摘する。例えば、パートナー側のキーパーソンがプロジェクト途中で抜ける。エンドユーザーのプロジェクトへの関与が少ない。エンドユーザーとしてITに丸投げしたつもりはなくても、当事者意識を持つ機会が少なければ、コミュニケーション不全が起きる。早め早めにリスクに対応するプロジェクトマネジメントを極めることが重要という学びが、その後に続くRISE with SAPへの移行を1年で成功させるまでの成果につながった。