データが経営の羅針盤になる──CoMPASSが拓くデータドリブン経営への道

CoMPASSが安定稼働に至るまでには、「本当にこれで良かったのか?」と迷いもあった。また、エンドユーザーが新しいシステムのUIに慣れるまでには時間がかかる。アドオン開発を抑制した分、「使い勝手が悪い」という意見も聞こえてくる。この意見への対応では、WalkMeを導入し、2023年2月からナビゲーションを提供する対策も講じた。
エンドユーザーには新しいUIに慣れるまでの負担がかかる。「仮にその負荷が一時的に従来比の1.1倍になるとしても、会社全体の得られる効果は2倍、3倍になること、その効果は自身にも波及するものであると理解してもらう丁寧な説明が必要になる。ダッシュボードで可視化されたデータを見て、良さを実感してもらうことで、徐々にCoMPASSが役に立つとわかってもらえるようになった」(田中氏)。ここでエンドユーザーが納得していなかったら、「RISE with SAPに移行したい」と訴えても、支持されなかっただろう。システムに業務を合わせることはまだ道半ばだが、石油業界独特の商慣習や、2つの会社の業務の違うところをすり合わせるところから始め、Fit to Standardを徹底できたのは成果と総括できる。
今後に向けては、データ活用の高度化が視野に入る。ENEOSでは、部単位の「データドリブン事業運営」と、経営層の「データドリブン経営」の2つを区別している。「データドリブン事業運営では、今までより機敏に起きていることを理解し、意思決定に結びつくことにCoMPASSのデータを使ってほしい。それを束ねて経営の舵取りをする経営層には、データを俯瞰的に見て、次の打ち手の決定に役立ててもらう。経営層が今年のROICは何%になりそうかを予測し、対策を講じるようなデータドリブン経営の素地はできつつある。一方、データドリブン事業運営の方はまだこれからで、全体として思い描いていたところに辿り着くにはもう一歩が必要だ。新しいシステムであれば可能と期待している」と田中氏は展望を語った。
今回のRISE with SAPへの移行で、Jouleを始めとするSAP Business AIの最新テクノロジーを事業戦略や業務改革の取り組みに対してタイムリーに利用できる環境が整ったことになる。同時に、ITの中の仕事も変革する。鳥居氏も「SAPの保守や運用も省人化と高度化していきたい。特にAIエージェントに期待している。どこまで使えるかを見極めたい」とした。
ECC 6.0からの移行に取り組む企業に向けて、田中氏は「役員から『なぜできないの?』と言われるかもしれないが、難しいことをやっている。私たちも同じところで苦労したし、ITは会社が違ってもやっていることは同じなので、もっと仲間同士で情報を共有していければ良いと思う。私もITの外側にいた時は「何をやっているのだろう?」と思っていたが、とても大事な仕事をしているとわかった。IT部門がやっていることを理解してもらう活動を地道にやる。うまくいけば新しい挑戦もできる。会社の中に好循環が創られる」と助言をくれた。