日本企業のIT運用におけるAIエージェントの可能性

──富士通の高橋氏との対談セッションで、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の重要性を指摘されていましたね。AIと人間の協働バランスについて、どのようにお考えですか?
テハダ氏:AIを活用することで、コスト効率の向上とビジネス成果の改善の両方を実現できます。私の組織行動学や経営管理の学びが、この「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の考え方に深く関わっています。ミシガン大学でのリベラルアーツ教育を通じて、複雑な問題を特定・理解・診断し、解決可能な部分に分解する訓練を受けました。
AIを活用することで、複雑なインシデント管理プロセスに関わる人員を削減できるだけでなく、重大なインシデントがビジネス上の大きな問題になることをより確実に防止できるようになります。
当社のプラットフォームでは、インシデントが発生するたびに学習し、類似したインシデントやイベントを認識できるようになります。問題を適切な専門家に振り分けるオーケストレーションも支援します。
「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の本質は、AIが人間の判断を完全に代替するのではなく、人間の意思決定をサポートし、強化することにあります。特にミッションクリティカルなシステム運用では、最終判断は常に人間が行うべきです。
──発表されたグローバル調査では、AIに関して、日本は実際には世界的に見て現在の導入状況が遅れていることが示唆されていますが、日本市場の特性についてはどのようにお考えですか?
テハダ氏:日本社長の山根が指摘した「日本企業は今のところ実導入に慎重ではあるが、運用現場の痛点を直接解決する実用的なAI活用を求めている」という見解に同意します。
日本のビジネスリーダーには、AIを積極的に活用し、人材不足の課題に対応する大きなチャンスがあります。AIは組織内で単調で反復的な低価値タスクの負担を軽減し、人間がよりクリエイティブで充実感のある高付加価値の仕事に集中できるようにします。
私が日本の顧客と話して興味深いと感じるのは、若い従業員が最も早くAIを採用し、抵抗なく受け入れる傾向があることです。彼らがマネージャー層にAIの利点を示すことで、組織全体の変革が加速する可能性があります。
日本企業の強みは、一度方向性が定まれば組織全体が一丸となって取り組む実行力です。AIの導入においても、初期の慎重さを経て、明確な価値が認識されれば急速に普及する可能性があると考えています。
──日本企業では特に、熟練世代の知識や経験が失われる課題が深刻です。AIエージェントはこうした知識継承の問題にどのように対応できますか?
テハダ氏:これは日本だけでなく、多くの国で直面している重要な課題です。PagerDuty Operations Cloudでは、インシデントが発生するたびに、その解決に必要なイベント、ワークフロー、人間の行動の組み合わせの記録を蓄積します。プラットフォームは人間よりも効率的に記録を残せます。
これにより、同じソリューションを再利用でき、どの問題にどのソリューションが必要かも知的に判断できます。こうした機能は、退職や転職などで人材が離れる際に生じる情報ギャップを埋めるのに役立ちます。人間がすべての知識を手作業で保持する必要性を軽減できるのです。
AIエージェントは単に過去の対応を再現するだけでなく、新たな状況に適応して最適な解決策を提案する能力も持っています。これは単なるマニュアルやドキュメントでは実現できない、動的な知識継承の形と言えるでしょう。
日本企業は品質と信頼性に対する高い基準を持っています。その強みを活かしながら、AIを戦略的に導入することで、人材不足や知識継承といった課題を解決し、さらなる競争力を獲得できるでしょう。