企業のセキュリティ計画にも影響する?「サイバー」と「安全保障」の専門家が日米サイバー協力の未来を語る
慶應義塾大学 小宮山功一朗氏×ハドソン研究所 村野将氏
石破&トランプ会談ではサイバー協力にも言及、密な連携を築けるか?
小宮山氏:そうした中で、2025年2月に石破総理大臣とトランプ大統領の間で行われた日米首脳会談では、共同声明に「サイバー空間における二国間安全保障協力の拡大」の文言が盛り込まれましたね。
村野氏:そうですね。文言の中では、「AIや安全・強靭なクラウドサービスなどの新技術活用による情報共有の進化」にも言及されていました。小宮山さんは、現状の日米によるサイバーディフェンス分野での協力をどう評価されていますか。
小宮山氏:サイバー協力についてお話しする前に、まず日米同盟について私自身の経験を共有したいと思います。ある時、横須賀の海上自衛隊基地を訪れた際、すぐ隣に米海軍基地があり、第7艦隊の空母ジョージ・ワシントンが停泊していました。海自と米海軍は独立した別々の組織ですが、非常に近い距離で協力し合っていた姿が印象的でした。その渾然一体の光景から、東アジアの平和がどのように成り立っているのかを初めて実感したのです。
米海軍の人が「米陸軍より海上自衛隊のほうが仲が良い」というくらい、本当に海自と米海軍は良い関係にあると言われていますね。話が逸れましたが、そう考えると日米のサイバー協力は順調に発展してはいるものの、まだまだ自衛隊と米軍ほどの協力レベルには達していないと思います。
そしてもう一つ、日米間のサイバー協力で強く印象に残っている出来事があります。
村野氏:何でしょう。
小宮山氏:2015年9月、中国の習近平国家主席ががホワイトハウスでオバマ大統領と会談し、「金銭目的のサイバースパイ行為を双方で止める」ことに合意しました。すると、日本に対する高度なサイバー攻撃の数が一時的にガクッと減ったのです。この効果は持続こそしませんでしたが、米中首脳の合意が日本に対するサイバー攻撃の減少に直接つながった例です。合意の後、中国が自国のサイバー攻撃部隊に「止めなさい」と指示し、米国への攻撃が止まったことで、日本への「ついで」の攻撃や下準備的な攻撃も減少したのでしょう。
つまり、私たちはサイバー分野でも米国と運命を共にしている。同盟国である米国を助け、米国の取り組みもまた日本のサイバー空間を守ることにつながると実感しています。
日米によるサイバーに関する対話は、毎年ワシントンD.C.と東京で交互に開催されています。また、日米印豪によるQUADの対話の場でも、たとえばランサムウェア被害を削減するために北朝鮮へ共同で圧力をかけるなど、多国間での協力も進んでいます。G7、G20、OECDなどといった国際交渉の場でも、様々な協力が行われていますね。
ただ、先ほど申し上げた自衛隊と米軍ほどの緊密な情報協力は、少なくとも私が知る範囲ではまだありません。そこをどう強化するかの議論は間違いなく必要で、石破総理が訪米した際の共同声明には具体的な記述こそありませんでしたが、内部では具体的なアクションプランがいくつか決まっているのではと推測しています。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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