ラスベガス“Sphere”で「オズの魔法使い」をリメイク AIの進化と人間の重要性をアピール
これまで年次イベント「Google Cloud Next」は、米サンフランシスコで開催されてきたが、2024年よりラスベガスに場所を変えた。ラスベガスで2回目となる今年、幕開けの場所として選ばれたのは「Sphere」。2023年秋にオープンしてから、すぐに新名所となった球体型のイベントスペースだ。

テック業界とSphereといえば、2024年6月にHewlett Packard Enteprise(HPE)が初めて基調講演を行っている。当時HPEは、16万平方フィートのスクリーンにプレゼン資料を投影し、来場者を沸かせた。Google CloudがSphereを選んだ背景には、ここを自分たちの“技術力を表現する”ためのキャンバスにするというプロジェクト──Sphere Studios、Magnopus、Warner Bros. Discoveryらと「オズの魔法使い(The Wizard of Oz)」のリメイクプロジェクト──を進めているからだ。
オズの魔法使いといえば、1939年に映画公開もされた不朽の名作。ジュディ・ガーランド(Judy Garland)が演じる主人公、少女ドロシーの名セリフ「There's no place like home(わが家にまさるところなし)」、そして劇中歌「Over the Rainbow(虹の彼方に)」などは誰もが知るところだ。その映画をSphereが擁する巨大な曲面LEDディスプレイにフィットするよう、AIで再構築するというプロジェクトだ。

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「Google CloudとGoogle DeepMindは、Sphere、Magnopus、Warner Bros. Discoveryなどとともに、『Google AI』を使ってSphereのスケールで観客を魅了する。古典的なアメリカ映画をまったく新しい世代にもたらす、というプロジェクトは大きなチャレンジだが、これができるのはGoogleだけだ。我々にはエンジニアや問題解決者(Problem Solver)、映画オタクがいる」とステージに立ったAlphabetおよびGoogleのCEO サンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)氏は話す。
「技術面でのハードルは非常に高かった。そこで我々はGeminiやVeo 2などのフロンティアモデルの限界を押し上げており、大きな改善が見られた」と続けると、遅延解消や動画品質の向上、マルチモーダル出力などで性能向上につながったと強調。「ほんの12ヵ月前には実現できなかった」というピチャイ氏の言葉は、AIにおける技術革新の速さを物語っている。
実際にGoogleは2024年2月にGemini 1.5をリリースすると、12月にはGemini 2.0、そして2025年3月にGemini 2.5を公開するなど、急ピッチで技術革新を進めてきた。なおピチャイ氏が触れた「Veo 2」は動画生成モデルで、テキストから最大4Kの動画を生成可能だ。あわせて年次イベントでは、音楽生成モデルの「Lyria」も発表された(後述)。
プロジェクトでは縦横比4:3、35mmのセルロイドフィルムという粗い粒子を持つオリジナルの素材を生かしつつ、Sphereならではの没入型体験の提供を目指した。Google CloudとDeepMindは、Veoや画像生成モデルのImagen、Geminiを駆使して超高解像度画像に変換するツールを開発。また解像度を上げるだけでは十分でなく、巨大なSphereのスクリーンにあわせてオリジナル映像ではカットされている人物やオブジェクトも描かなければならない。「従来のCGIでは拡大の問題は解決できたかもしれないが、映っていない部分を埋めるといったことは不可能だった」として、「out-painting」(後述)という新たな技術が用いられている。
ピチャイ氏は、「メディア・エンタメ業界における、AIの可能性を示すものだ」と胸を張る。映画製作は人間の創造的作業であり、技術は置き換えられないとしながら「世界は“AIファースト”で進んでいくが、人の体験がより重要になっていく。だからこそGoogleは、AIでクリエイティブな人々を支援していく」と述べる。なお、Google Cloudらが手掛けたSphere版の「オズの魔法使い」は、今夏(2025年8月28日)に公開予定だ。