SAPがパランティアと組んだ理由/SAP Business Data Cloudの戦略とは?
「SAP Sapphire & ASUG Annual Conference 2025」レポート#3
アプリケーション、AIに続く「SAPフライホイール」の大きな要素がデータである。SAPの年次カンファレンス「SAP Sapphire & ASUG Annual Conference 2025」の基調講演では、SAPのデータ戦略の要「SAP Business Data Cloud」のアップデートが紹介された。特に大きな焦点を当てられていたのがJouleを介して利用するインテリジェントアプリケーションである。
Palantirとのパートナーシップを発表

2025年2月、SAPは新製品「SAP Business Data Cloud(以降、BDC)」をリリースした。BDCは、SAPデータとSAP以外のデータを統合するデータプラットフォームで、CEOのクリスチャン・クライン氏の言葉によれば、「業界最大級のセマンティックデータレイヤー」を提供するものになる。

また、クライン氏は、データアナリティクスソフトウェアを提供するパランティア(以後、Palantir)との新しいパートナーシップも発表した。Palantir CEOのアレックス・カープ氏は動画で登場し、「SAP Business CloudとPalantir製品を組み合わせ、双方の顧客により高い価値を提供する」と述べた。Palantirでは、大規模言語モデルのマネジメントでOntologyを、データのハーモナイゼーションではFoundryを利用しているという。このパートナーシップで、BDCとPalantirはシームレスに連携し、顧客はエンタープライズ環境全体でリアルタイムに調和のとれたデータへの接続が可能になる。
続いて、ムハマド・アラム氏(SAP Product & Engineering, SAP)が登場し、BDCのアップデート内容を紹介した。BDCとは、AIのパートでフィリップ・ハーツィヒ氏が語ったように、「推論からアクション」を実現する基盤である。BDCは下から「データプロダクト」「データファブリック」「インテリジェントアプリケーション」の3つのレイヤーで構成されている。
データプロダクトは、SAPアプリケーションと非SAPアプリケーションのどちらをデータソースとする場合でも、データファブリックを介し、インテリジェントアプリケーションが要求するハーモナイズしたデータを供給するものだ。SAPは、2025年末までにSAP Business Suite全体をカバーする数百のデータプロダクトを提供する計画を発表した。データファブリックレイヤーの上に位置するインテリジェントアプリケーションレイヤーは、ビジネスプロセスのエンドツーエンドで、リアルタイムインサイトを提供するものだ。今回のSapphireでは、「Cloud ERP Intelligence for private cloud」「Spend Intelligence」「People Intelligence」の3つのインテリジェントアプリケーションが発表になった。
3つのインテリジェントアプリケーションを発表
個別取材に応じてくれたマノジ・スワミナサン氏(General Manager and Chief Product Officer Business Suite, Finance & Spend, SAP)は、「BCDがなくてもAIを活用することは可能だが、BCDには大きなメリットがある」と話す。

通常、企業内では、ファイナンスから、調達、SCM、HCM、CXまで、多くのビジネスアプリケーションが稼働している。しかし、アプリケーションごとにデータが管理されているため、データプラットフォームがなければ、サイロ化したインテリジェンスを利用することになってしまう。そこで、ビジネス活動に分断が生じないよう、SAP Business Suiteの一部にデフォルトでBDCを組み込み、あらゆるデータを統合した状態で利用できるようにした。

BDCは企業のビジネス活動の基盤として、「Lead to Cash(見込み客の獲得から売掛金の回収まで)」「Source to Pay(サプライヤーの選定から支払いまで)」のように、多くの部門が関与するビジネスプロセスをエンドツーエンドの実行を支える。さらに、BDCはエージェンティックAIの基盤にもなる。
3つのインテリジェントアプリケーションのうち、「Cloud ERP Intelligence for private cloud」は、プライベートクラウドでCloud ERPを利用中の顧客向けのもので、ファイナンスとサプライチェーンという2つの分野にまたがるデータプロダクトを参照し、インサイトを提供する。プライベートクラウドのインスタンス内に限定して、統合的なデータビューを基にインサイトを得られるようにしたのがこのインテリジェントアプリケーションの特徴だ。また、Sustainability Control Towerがこのアプリケーションの一部として提供される。
たとえば、CFOがキャッシュフローの状況を知りたいと考えたとする。Jouleに過去数期間のキャッシュフローの傾向を尋ねると、Jouleはインテリジェントアプリケーションの1つ、Cloud ERP Intelligenceへのリンクを表示する。これをクリックすれば、キャッシュフローに関する主要な指標を確認できる。Jouleは推奨事項も提示するので、業務の流れの中でCFOはアクションを実行できる。また、Sustainability Control TowerのインサイトもCloud ERP Intelligenceから得られる。CFOが自社のサステナビリティ目標の進捗状況についてJouleに質問すると、サステナビリティ関連指標を確認できる。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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