変動する世界と増大する情報の時代
対応するために不可欠な「インテリジェンス」とは
世界経済の複雑化・多様化が進み、企業は予想外のリスクに常に脅かされている。例えば、1900年比で6倍にもなった水の使用率、年間38億時間もの損失が認められる日本の交通渋滞、北米で在庫切れによる小売業者の推定売上機会損失額は9.3 兆円にも上るという。
しかし、裏を返せば、様々な問題が生じているということは、改革による解決が新たなビジネスチャンスを創出する機会でもある。例えば、IBMはマイクロチップ製造時の水使用量を約3割削減したほか、ストックホルムではスマートな交通網によって渋滞を22%も緩和させた。また、中国のある小売業者はサプライチェーンの改善によって商品の納期を98%も短縮させた。 こうした事例を踏まえ、森氏は「目の前の変化に対応するだけでなく、将来に起こることにも的確に対応した結果」と語り、それを実現するためには高度な予測能力として「インテリジェント」が不可欠と説明する。膨大なデータを分析し、そこに現れる「真実」を見定め、洞察し、予見する能力を組織に持たせることが必要というわけだ。
一見、それは難しく特異なことのように見えるが、森氏は「ごく普通に行われてきたこと」という。例えば膨大なデータから予測するものとして「天気予報」があるが、雨と予測されれば、小売りなどでは傘を店頭に出すなどのアクションが取られる。つまり、未来を予測し、その判断に基づいて行動することは何も難しいことではないのである。それを組織の誰もがリアルタイムにできるようになることが、次世代の効率化に大きく貢献するのだ。
森氏は、過去のデータ分析行動に対し、この新たな予測に基づく対応を「New Intelligence」として紹介する。そして「過去のデータをバックオフィスで専門家が経験と直感で分析していたものから、あらゆる場所であらゆる関係者がリアルタイムに判断して未来の予測や行動につなげる仕組みをつくることが重要」と語る。これが実現すれば、あらゆる場で現状に基づき、すべてのトランザクション、プロセス、および意思決定を最適化することができる。
例えば、ローンの与信担当者がある顧客の海外旅行に合わせてリアルタイムに与信限度を調整したり、コールセンターの担当者が利用状況に合わせてサービスを変えたりといったことが可能になるわけだ。森氏は、このような「リアルタイム・アナリティクス」の実現が企業全体の価値を向上させると力説する。
理想とかけ離れた現状を最適化する
統合データウェアハウスの構成要素とは
「リアルタイム・アナリティクス」を実現する上でその成否を左右するのは、フロントツールではなく、信頼できる基盤としてのマスターであるという。森氏は、ある家電小売店のオンラインショップの事例を挙げ、一度は「リアルタイム・アナリティクス」に成功して3倍以上の売上向上に効果をあげたものの、時間の経過とともに古い情報が蓄積し、ユーザーの生活の変化と齟齬が生じてしまったことを紹介し、「膨大なデータを正しく活用するためには、情報の品質を保つ仕組みを考える必要がある」と指摘した。
他にもデータの不整合や確実性の欠如、重複作業の発生しがちなレギュレーションなど、「情報の品質」を担保していくためには乗り越えるべき問題が山積みである。原因の1つとしてデータウェアハウス(DWH)を構築したつもりで、さらなる目的別マートを発生させてしまい、結果、異なるマート間の指標連結が行われずに部分最適化に留まっていることが考えられる。
そうした問題に対してIBMは解決策を打ち出している。システムや部門ごとに存在するデータを一括で管理する「統合データウェアハウス」である(図2)。森氏はその活用のポイントとして、「マスターデータマネジメント」「汎用性の高いデータモデル」「データ移行時の品質保持」の3点を挙げる。
まず、統合データウェアハウスとしての機能を持つためには、まずは様々なシステムで共通利用する、汎用性・共有性の高いマスター情報を統合管理できることが必要だ。IBMのInfoSphere Master Data Management Server は、様々なシステムや外部データから属性を集め、名寄せして単位に統合化された形でデータを保持し、再び様々なシステムに統合データとして受け渡すとともに、オンラインでの照会や更新も可能である。
加えて、データを活用するためには、あらゆるシステムの要求に応えられることが必要となる。例えば、業界業種はもちろん、企業ごとにデータモデルが異なっており、それぞれのキーとなる要求に対して求められるデータ項目を整理された形で受け渡すことができなければならない。IBMの業界データモデルは、分析領域の広さ・網羅性であらゆる業界・業種に対応している。
また、受け渡すソース側の問題としてデータがゴミだらけだったり、間違っていたりしては、どんなに分析しても正しい判断ができるはずがない。住所欄に電話番号が入っているなどの初歩的なミスは多く、それらをすべて人の手で改訂していくことは不可能に近い。そうしたデータの正確性を飛躍的に高めるのがIBMのInfoSphere Information Analyzerである。設計書と異なる実装・改修のアプリケーションや、誤入力・不正データなどを事前に分析して発見、修正できるため、データ統合やデータ移行時に問題が発生するリスクを低減できるのだ。
こうした技術要素により統合データウェアハウスが構築できたとき、ビジネスにどのような変化をもたらすのか。本セッションでは、CFO(Chief Financial Officer)からあるテーマについてのレポート作成を依頼された様子がシミュレートされた短いムービーが紹介された。まず関連用語によってデータを検索し、該当するデータを各システムから収集してDWHに格納する。そこからインターフェイス上で分析してレポートを作成する。それに基づき、アナリストの視点から分析が行われるが、その際、使用されたデータソースまで遡ってデータの正確性が確認された。そして、アナリストの分析が責任者に渡り、それに基づいてより的確な判断がなされるに至った。
森氏は「価値ある分析レポートのためには、データそのものの正しさはもちろん、どこからどのように流れてきたのかを確認できることが必要」と説明し、IBMにはこのデータ流入の過程でヒューマンエラーが生じないよう、シームレスにデータを取り込む仕組みがあるとして優位性を強調した。
そして森氏は最後に、こうした「New Intelligence」を実現するツールとして、IBMのビジネス分析用アプライアンスサーバーである、IBM Smart Analytics System を紹介した。同社のアプライアンスサーバーは、データベースマシンだけではなく、ETLデータとも連携し、フロントアプリケーションの能力を兼ね備えており、「エンドユーザーとソースデータとを一操作で結びつけられる、他にはないユニークな製品」(森氏)だという。
なお、同サーバーの詳細情報は4月13 ~14日に開催される「Information On Demand Conference Japan 2010」(主催:IBM)にて紹介される予定である。
【関連URL】
・Information On Demand Conference Japan 2010
・InfoSphere Master Data Management Server
・InfoSphere Information Analyzer
・IBM Smart Analytics System