DX人材が離れていく求人票とは──自部門は大丈夫? Web上の“悪い例”にみる2つの改善ポイント
第2回:DX人材は求人をどう見ている? 求人票を自部門の“アピールポイント”にする秘訣
こんな求人票は嫌われる? 実例にみる“BADポイント”
ここからは、実際に公開されている“悪い求人票”を例に挙げながら、求人票を作る上で気を付けるべきポイントを見ていきましょう。
チェックポイント1:求職者が判断できる求人票になっているか
【BAD Case 1】大手金融機関
- 職種:デジタル企画(BizDev)
- 仕事内容:DX戦略推進プロセスを担当し、事業部に対してDX関連新規事業を推進していただきます。
- 応募資格:課題を探索できて、関係各部への推進力がある方/新しいテクノロジーに強い関心がある方/DX推進の経験がある方
上記の求人票を見ただけでは、職種も業務内容も抽象的で、部門としてどのようなミッションがあり、具体的にどのような業務に携わるのか、誰とどのように働くのかなど、具体的なイメージがまったく見えてきません。このように情報量が少なすぎる求人票は、「その会社の採用熱度が低い」「どこでも通用するテンプレートを引用しているのではないか」と、DX人材にネガティブに受け取られがちです。
この求人票に関しては、以下を明記することで求職者の解像度が一気に高まるでしょう。
- 部門の役割やミッション
- 募集背景(なぜこの人材が必要か)
- 担当するプロジェクト事例や体制
- 自社(自部門)の魅力
- 労働条件や働き方の具体像
【BAD Case 2】地方銀行
- 職種:DX企画の推進担当
- 仕事内容:全社におけるDXを推進する中核組織メンバーとして、DX戦略全般に関する業務を担当していただきます。
この求人票も示されている業務範囲が広すぎます。具体的に「何を」「誰と」「どう進めるのか」が明記されていません。「戦略策定」「戦術の実行」「プロジェクトマネジメント」「部門横断の調整役」など、どのレイヤーを期待しているのかを明らかにする必要があるでしょう。
追加で明記すべき点としては、以下が挙げられます。
- 担当レイヤー(戦略・戦術・実行)
- プロジェクトの具体例(業務改革/顧客接点改革/システム刷新など)
- 組織内での位置づけと関係部門
では、BAD Case 1と2を踏まえ、情報が充実している良い求人票の例を見てみましょう。
【GOOD Case】中堅人材サービス業
- 職種:社内DX推進プロジェクトのPM(プロジェクトマネージャー)
- 募集背景:同社グループには複数社、複数事業が存在しており、それぞれが独立的に成長してきました。今後は、各事業に蓄積された顧客・商談データなどを統合し、全社的なBPRを推進していくことを目指しています。
- 仕事内容:事業部と折衝しながら、情報基盤整備やガイドライン策定・ステークホルダーの課題整理を担当し、プロジェクトをリードしていただきます。
この求人票には組織課題や背景が明示されており、読んだ求職者に対してプロジェクトの全体像と自分の担当領域が明確に伝わりやすいです。特にDXに関係する職種を検討する際には、「どの工程を任されるのか」「どんな難所があるのか」が求職者にとって重要な判断材料となります。プロジェクトの文脈を分かりやすく適切に提示することが、DX人材の応募意欲を高める求人票に作るための第一歩となります。

チェックポイント2:業務範囲と給与設定に矛盾はないか
【BAD Case 3】化学専門商社
- 職種:DX戦略にともなうデータサイエンティスト
-
業務内容:
- プロジェクト全体計画策定
- データ基盤の整備
- データ分析、機械学習モデル構築・運用
- 人材育成プログラムの構築
- 年収レンジ:800~1000万円
職種はデータサイエンティストですが、業務内容を見てみると、戦略設計やデータ基盤整備、人材の育成まで含まれており、データストラテジストやデータエンジニアの領域まで役割を求められています。このような期待値が広すぎる“何でも屋”求人は、年収水準と求めるスキルセットが釣り合わない印象を与え、優秀な候補者ほど応募をためらいがちです。
このような求人は、以下を意識することで改善されます。
- 職種ごとに求人を分けて明示する(例:データサイエンティスト/データエンジニア/データストラテジスト)
- 役割に応じた年収レンジを設定する
- 応募要件は「and条件」か「or条件」かを明確にする
【BAD Case 4】地方銀行
- 職種:DX戦略担当
- 業務内容:DX戦略/業務改革/新規事業開発/技術選定/社内ITシステム刷新/プロジェクト管理
- 年収レンジ:800~1000万円
この求人もCase3と同様に、一つのポジションであまりに多様なスキル・経験を求めています。「新規事業開発」と「社内ITシステム刷新」では、本来求められるバックグラウンドが大きく異なっており、対象人材のペルソナが混在してしまっています。
この求人票の改善ポイントとしては以下が挙げられます。
- 求める人材像をペルソナベースで切り分ける
- 必須要件/歓迎要件を切り分ける
- 業務領域別にポジションを分けて提示する
では、BAD Case3と4を踏まえ、業務範囲と給与設定に統一性のある“良い求人票”を見てみましょう。
【GOOD Case】中堅デベロッパー
- 職種:DX戦略室 ICT推進プロジェクトマネージャー
-
業務内容:中期経営計画に基づき、ネットワーク刷新/EDR/データ基盤整備/生成AIの全社導入などを進行していただきます。今後は、通信インフラのモダン化、ペーパーレス業務改革などを展開していただく予定です。またご経験に応じて、以下のいずれかのプロジェクトマネジメントを担っていただきます。
- DX戦略・戦術立案支援
- ネットワークインフラ推進
- 情報セキュリティ管理
- 基幹システム刷新
- サーバインフラ構築
- 年収レンジ:800~1000万円
このように、求人票に「担当する可能性のある複数ポジション(or条件)」を明記することで、求職者が自身の経験に合った領域を判断しやすくできます。年収レンジとのバランスも取れており、応募のハードルが下がる好例といえます。
まとめ
優秀なDX人材は、求人票の記載内容から企業のDX推進に対する本気度を読み取ります。裏を返せば、求人票で企業のDX推進への本気度が透けて見えるともいえます。採用活動において、求人票は単なる情報提供の場ではなく、候補者へのプレゼンの場でもあるのです。
求人票の質は、応募数だけでなく、入社後の定着率にも影響します。特にDX人材のような希少人材の採用においては、わずかな違和感が致命的な離脱要因になることを認識しておくと良いでしょう。
つまり求人票は、採用企業にとっての“身だしなみ”であると同時に、“採用の第一打席”ともいえます。ここまで挙げてきたような求人票の改善案は、少し視点をずらしたり、解像度をあげたりするだけで実現できます。大きなコストはかからず、効果も絶大なので、ぜひ本記事を参考に自部門の求人票を見直し、応募者の心をつかむ採用戦略を始めてみてはいかがでしょうか。
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- この記事の著者
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武藤 竜耶(ムトウ タツヤ)
TECH PLAY Branding 事業責任者。インテリジェンス(現:パーソルキャリア)にて約4年間デジタル人材領域の採用支援を担当。その後デジタル人材領域の採用支援部門責任者として2年間部門立ち上げに取り組み、大手企業のDX組織採用体制コンサル、新会社立ち上げ組織支援、メガベンチャー大型採用戦略...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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