トヨタ自動車が構築を目指す「エッジAI分散基盤」とは?高度なモビリティAIの学習を阻む課題と突破口
電力・ファシリティ・通信負荷……その先に直面する多種多様なエッジの制御
通信負荷との戦い、「Wi-Fi×エッジサーバー」で描く効率化戦略
データドリブン開発を実現するうえで、ICT基盤の観点から2つの大きな課題が浮上しているという。1つ目が「効率的かつ継続的なデータ収集の実現」、2つ目が「集めたデータの効率的な学習基盤の構築」だ。
特に深刻なのが、データ収集時の通信負荷だと古澤氏。車両の中で、特にカメラの画像などを使い始めると膨大なデータが日々生成される。セルラー回線を介して収集するのは、通信の観点で大きな負荷がかかるため現実的ではない。
そこでトヨタ自動車が着目したのが、車両データを扱う“基盤の性質”の違いだ。リアルタイムでサービスを提供する基盤では、遅延要件や可用性が重要な一方、学習用データ収集基盤では膨大なデータ量の処理が最優先となり、遅延要件はそれほど厳しくない。「学習用データ収集基盤なら特に急ぐ必要もなく、数時間、場合によっては1週間に1回まとめてデータを集めるといった方法でも問題はない」と古澤氏は説明する。
この特性を活かし、同社が推進するのがWi-Fiとエッジサーバーを活用したデータ収集基盤だ。急を要しないデータは、駐車中や、あるいはバッテリー電気自動車であれば充電中に、Wi-Fiを介して一気にやり取りする。エッジサーバーで一次処理を行い、中間のデータセンターも介して、階層的にクラウド側にデータを集約していくという仕組みだ。
学習済みのAIモデルやソフトウェア、コンテンツを車両側に戻す際も、同様にWi-Fiを活用する。古澤氏は「これならシステム全体として効率も良く、特に通信負荷を大きく下げることができる」と期待を寄せる。この階層的なアプローチにより、セルラー回線への依存度を大幅に削減し、コスト効率とシステム効率の両立を目指しているのだという。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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