クレディセゾンは2025年9月1日、AI活用による全社変革戦略「CSAX(Credit Saison AI Transformation)戦略」を発表した。同戦略では、全社員3,700人をAIワーカー化し、2027年までに300万時間の業務削減を目指す。6月から8月にかけて実施したChatGPT Enterpriseの試験導入では、315名の参加者で投資対効果(ROI)954%を記録するなど、大幅な効率化効果を確認した。

発表会では、水野克己社長と小野和俊CTO(専務執行役員CDO兼任)が登壇し、これまでのDX推進の成果と今後のAI活用戦略について説明した。同社は2019年からCSDX(Credit Saison Digital Transformation)戦略を推進してきており、CSAXはその第4フェーズとして位置づけられる。
6年間のDX基盤構築から本格的なAI活用へ

クレディセゾンのDX推進は、2019年にテクノロジーセンターを設立し、内製開発体制を構築することから始まった。小野氏によると、「当初は3名からスタートし、プロとしてプログラムを書ける人間は私1名という文字通りゼロからのスタートだった」という。6年間で内製開発チームは200名まで拡大し、主要システムの8割を内製化するまでに成長した。
これまでの取り組みにより、161万時間の業務削減、102トンの紙削減、クラウド活用率80%を実現している。小野氏は「161万時間は平均的な社員800人分の年間労働時間に相当する。机上の計算ではなく、実際に業務受託の拡大にもかかわらず人員補充を行わずに済んでいる」と説明した。

全社員にChatGPT Enterprise導入
CSAX戦略は4つの柱で構成される。第1の柱は「全社員のAIワーカー化」で、「AIをごく自然に使いこなして、日常の仕事をレベルアップする社員」の育成を目指す。ChatGPT Enterpriseの試験導入では、当初予定の250名を大幅に上回る315名が参加し、1か月間で平均170時間の年間業務削減効果を確認した。

部門別では営業が月間26.7時間、管理部門が20.2時間、オペレーション部門でも6.8時間の削減を実現。満足度調査では、経営層・部長職の75%、プロジェクト参加希望者の70%が「なくては困る」と回答し、「なくても問題ない」「不要」との回答は0%だった。
第2の柱「AIを前提とした業務の再設計」では、既存業務をAI活用前提で抜本的に見直す。企画書・提案書作成では60%の削減見込み、カウンターシフト作成では80%の削減効果を確認している。小野氏は「AIがない時代に設計された業務が大半を占める中、AI前提で考えたときの最適な形を全部門で追求していく」と述べた。


AIコールセンターで顧客体験と業務効率を両立
第3の柱「AIコールセンター」は2028年春の本格稼働を目指す。同システムでは、顧客からの問い合わせをAIが自動判定し、簡単な確認や手続きは自動音声で対応、複雑な相談は有人対応に振り分ける。有人対応時もAIがリアルタイム支援を行い、オペレーターの対応をサポートする仕組みだ。
会見では、セゾンアメックス営業部コンシェルジュグループによる苦情対応のロールプレイデモが実施された。AIが顧客役を演じ、オペレーターの対応を評価・フィードバックする訓練システムを披露。小野氏は「格闘技のスパーリングのように、本番前の練習を重ねることでオペレーターの心理的負担を軽減できる」と効果を説明した。
内製開発体制を活かし、音声基盤とオペレーター向けシステムを自社開発することで、「どこよりも早くAIコールセンターを実現できる可能性がある」(小野氏)という。

AIフレンドリーな設計とガバナンス体制の整備
第4の柱「AIフレンドリーな情報・システム設計」では、人間だけでなくAIにとっても使いやすい文書やシステムの設計を推進する。例えば注釈について、従来は「注1」として遠く離れた場所に説明を記載していたが、AIの認識精度向上のため「セゾンアシスト(注1)」の注釈部分に「セゾンアシストとは」と対象用語を明記するルールを策定した。
システム設計においても、人間中心設計に加えてAI活用を前提とした設計思想を取り入れる。API設計、データベース項目名、画面のIDやclass名の付け方まで、AIにとって使いやすい形での開発を進める方針だ。
AIガバナンスについては、AI活用状況の現状把握、指針・ポリシーの策定、体制構築、モニタリングプロセス策定、ツール導入、人材育成、運用プロセス改善の7つのプロセスを定義。CSDX推進会議と経営会議で経営層もコミットする体制を構築し、効果検証とリソース配分の最適化を継続的に実施する。

人材戦略で4層構造のデジタル人材ピラミッドを構築
人材戦略では、従来の3層構造にAIワーカーを第4層として追加した4層のデジタル人材ピラミッドを構築する。Layer1がコアデジタル人材(エンジニア、データサイエンティスト等)、Layer2がビジネスデジタル人材(リスキリング組)、Layer3がデジタルITA人材(市民開発者)、Layer4がAIワーカー(全社員)という構成だ。

各部門にCSAXリーダーを配置し、現場のニーズを吸い上げる体制を整備。全社での人材育成を担うCSAX CoEも設置し、実装に向けた伴走支援を行う。職種別の活用研修や、事業特性に合わせたプログラムも展開予定だ。
水野社長は「2030年には全社員がデジタル人材になることを目標としている。従来の縦割りビジネスをデータで繋げ、カード会社から生活を最適化するデジタルプラットフォーム企業への変革を目指す」と今後の展望を語った。同社のCSAX戦略は、従来のDX推進で培った内製開発力とAI技術を掛け合わせ、全社規模での業務変革を実現する包括的な取り組みとして注目される。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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