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酒井真弓の『Enterprise IT Women』訪問記

「中小だから……」は言い訳 超アナログな地方中堅企業を2年半で変貌させ、四国のITをリードする存在に

第39回:マキタ 執行役員 情報企画部長 高山百合子さん

 香川県に本社を構える、創業115年の老舗・船舶エンジンメーカーのマキタは、15年前まで情シス不在で“IT原野”だった。情報セキュリティベンチマークは平均を大幅に下回る状況。それを打破しようと立ち上がったのが、当時一般事務職だった高山百合子さんだ。「さっさと帰りたい」を原動力に業務効率化を始め、やがて無秩序な社内ITに気づき、上司にシステム専任担当になりたいと直談判。一度は却下されるも諦めず、ひとり情シスとして様々な改革を行った。そうした成果が評価され、今は執行役員として経営とIT戦略をけん引する立場となった高山さんに、15年の歩みを聞いた。

IT関連業務が集まるにつれて募らせた“危機感”

酒井真弓(以下、酒井):高山さんは2005年に一般事務職として入社されたんですね。

高山百合子(以下、高山):結婚を機に香川に来て、とにかく雇ってもらえるところを探していました。採用してくれたのがマキタです。設計部に配属され、図面をコピーしたり、お茶を出したり。ITスキルと言えば、Officeが使えるくらい。でも情シスがなかったので、パソコンのセットアップをお手伝いしていました。

 ただ、私はもともと筋金入りの面倒くさがりで(笑)。繰り返しの事務作業が嫌すぎてExcelマクロを学び、自動化に着手しました。次第にAccessのメンテナンスやネットワーク管理など、IT関連の業務が集まってくるようになりましたね。

 そうこうしているうちに「この会社、5年後には恐ろしいことになるな」と危機感を抱くようになったんです。インフラもネットワークもセキュリティも全部ベンダー任せ。社内に大量のウイルスが入り込み、外部にばらまいている可能性すらある。実際、当時の情報セキュリティベンチマークは偏差値29.9。本当に無秩序な状態だったんです。

 やるべきことを書き出して、上司に「自分が何とかするのでシステム専任でやらせてください」と直談判したものの、却下されました。専任担当を置く必要性をうまく伝えられず、「あなたの事務の仕事は誰がするの?」って。それはそうですよね。

酒井:それでも諦めなかったのはなぜですか?

高山:一番は、自分が楽したくて(笑)。業務を効率化して、さっさと帰りたかったんです。採用してくれた恩義もあって「人に誇れる会社にしたい」みたいな使命感もありました。

 そんなある日、常務から突然「今から社長と専務に説明行ける?」と声がかかったのです。当時、事務職が役員に直接説明するなんて前代未聞のこと。A4の紙1枚を握りしめてプレゼンしました。

 聞き終えた3代目社長(現会長)が「分かった。やってみなさい」と。専務が「そんなことになってたんか。そらあかん」ということで、私は晴れて情シス担当になり、ITが公式業務になりました。

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株式会社マキタ 執行役員 情報企画部長 高山百合子さん

実績でしか信頼を得られない 今では社長決裁は「最短15分」に

高山:1年目(2011年)は、山積みの課題に優先順位をつけて、ひたすら穴をふさいでいく。マイナスをゼロにする活動でスタートダッシュを決めました。初期は伸びしろしかないので、何をやっても効果が出ましたね。本を読んだり、セミナーに行ったり、ベンダーの皆さんに教わったりしながら、2年半でベースを整えました。

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酒井:2年半で一気に変わられたのですね。社内の雰囲気にも変化があったのでは?

高山:社内の風向きが大きく変わったのは、2018年の基幹システム再構築です。営業から在庫管理まで全部載せの巨大システムに対し、情シスは2人。全部署から代表担当者を選出し、要件定義からパッケージ選定、業務フローの見直し、マスタ整備、データ移行までワンチームで進めたことで、情シス任せから利用部門主体で考えるようになりました。特にマスタ整備とデータ移行作業は、各部門が役割の本質を見直す機会になったようです。

 データに対する意識も変わりました。情報は「隠すもの」から「共有するもの」に変わったんです。たとえば部品の単価。それまでは同じ社内なのに隠す習慣がありましたが、「積極的に共有して、本当に見てはいけないものだけ隠そう」に変わった。今となっては、お互いデータを見せずにどうやって仕事してたんだろうって言われます。また、「データが新鮮かつ正しくないと良質なサービスは提供できない」という気づきから、保守用部品表の大規模整備にもつながりました。

 中堅社員の育成、ITに向く人材の発掘もできました。外部のベンダーやSEの皆さんなど素晴らしい専門家の皆さんにも出会えた。先生であり、理解者であり、戦友です。

 ここまでの変化が分かりやすい写真があるのでお見せします。2011年、ひとり情シスとしてスタートした当初はこんなだったのが、2022年にはテレワークはもちろん、座席の完全フリーアドレスが実現できるまでになりました。

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酒井:そして2023年、執行役員に就任されました。何が変わりましたか?

高山:それまでは経営会議で決まった戦略が落ちてきてから、IT戦略を考えていました。それが戦略段階からITの話を混ぜ込めるようになった。むしろITの進化のほうが会社や業界より速いので、IT側の変化を経営戦略に生かすこともできるようになったんです。

酒井:情シスは現在8人体制で、内製化や多くの業務をこなしているそうですね。

高山:誰が抜けても仕事が止まらないよう、全業務を2人以上でカバーできるよう業務を配分しています。

酒井:情シスの採用・育成には、どんな工夫をされていますか?

高山:いかに居心地の良い環境を作るかですね。ワークライフバランスは重視しています。それに当社は経営層のフットワークが軽く、決裁も速い。「やっていいですか」「いいよ」まで最短15分。だって、もたもたしている間に熱は冷めていくじゃないですか。その方がもったいないですよね。

酒井:経営層との信頼関係は、どうやって築いていったんですか?

高山:結果を出し続けるしかない。やる意味や根拠を求められているうちは、本当の意味では信用してもらえてないんです。あるところを超えると、「この人が言っているんだから大丈夫だろう」で通るようになる。「やるって言ったんやからやるだろう。いくら必要? いつまでにやるの? じゃあ、やってみて」って。その関係に辿り着くまで頑張って実績を積み上げることです。

酒井:「情シスのプレゼンスを上げよう」みたいなムーブメントって、あるじゃないですか。アプローチがちょっと違いますね。

高山:小手先でやろうとしている時点で、通らないですね。少し乱暴な言い方ですが、その時間で一つでも成果上げたら? って思います。成果を引っ提げていったら通ると思っているので、順番が逆に見えるときはあります。承認されるために伝える技術も必要だと思うんですけど、肝心の中身が空っぽでは、どんなにうまく見せても通りません。

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「中小だから」は甘え “野生の勘”でゼロトラスト基盤構築に着手

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酒井 真弓(サカイ マユミ)

ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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