SAP Aribaを5.5ヵ月で導入したNIPPON EXPRESS 鍵は「現場の声は聞かない」覚悟
国内59社/グローバル約60社への展開支えたDAP「WalkMe」
常識破りの5.5ヵ月導入 マルチベンダー体制でも成功したワケ
NIPPON EXPRESSは、グループ/グローバルにおける請求書払いのプロセス・ルールの標準化、ガバナンス強化を目的にSAP Aribaの導入を進めた。国内59社への導入ともなれば、少なくとも1年程度の期間を要するのが普通だ。それを同社は、わずか5.5ヵ月で完了する「常識破り」のスピード導入を実現した。この驚異的なスピード導入の鍵となったのが、デジタルアダプション・プラットフォーム(DAP)である「WalkMe」の活用だった。
WalkMeは、ユーザーが新しいシステムを直感的に学び、スムーズに業務を遂行できる環境を整える。具体的には、操作ガイダンスや各種Tipsの提供、会計要件に基づく適切なデータ入力の確認などをノーコードで実装でき、大幅な開発工数の削減に貢献した。
ユーザートレーニングやヘルプデスクなどのサポートコストも大幅に削減。何よりも、導入直後から現場業務がスムーズに進行している点が大きな効果だろう。日下氏は、DAPとしての機能性を「半自動RPA」と表現し、異なるシステム間のデータ連携をスムーズに行える点を評価する。
半自動RPAとは、システム間連携をRPAで自動実現するのではなく、ユーザーがアプリケーションで入力操作をしている際、次に操作すべきアプリケーションを自動で立ち上げるなど、複数のシステムにまたがる業務プロセスを適切に実行できるようにサポートする様子を表す。
WalkMeは、単なるマニュアルやヘルプデスクの代わりではない。アプリケーションの活用状況を可視化・最適化するDAPとして、グローバルでのアプリケーション活用を促進する役割も担っている。
「使いながら改善」を実現し、グローバル展開を加速
今回のプロジェクトは、SAPやWalkMe、Celonis、AWS、ServiceNow、日立製作所など、複数ベンダーが関わるマルチベンダー体制で推進された。日下氏は、ベンダー管理という観点では数を絞ったほうが効率的だが、スピードを重視する観点からあえてマルチベンダー体制を選択したと説明する。
また、SAP Aribaの実装にはアジャイル開発、インターフェース開発にはウォーターフォール開発を組み合わせるなどの工夫もあり、クリティカルパス以外のタスクを同時並行で推進したことでも工期を圧縮した。

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その上でWalkMeの導入は、NIPPON EXPRESSの「使いながら改善」するというアプローチに合っていたという。新たなアプリケーションの展開で完璧を求めれば、手間も時間もかかる。同社では、場合によっては6割程度の完成度であってもシステムを稼働させ、現場で使いながら継続的に改善していく方法を選んだ。これにより、グローバルへの展開スピードが格段に速くなったと日下氏。
もちろん、スピードを重視した代わりに使い勝手の面では、ユーザーの要求に応えられないこともあったという。これに対しては、WalkMeでアプリケーションの使い方をガイドすることでサポートした。また、ユーザーがどこでつまずくのか、といった情報も収集してダッシュボードで確認でき、データをもとに適宜改善しながら完成度を高めていける。
国内での成功を受け、NIPPON EXPRESSは2025年1月から海外グループ約60社へのSAP Aribaの段階的な展開を行っている。ここでもWalkMeがグローバルでの調達プロセスの効率化に貢献すると期待されている。
特にグローバル展開において課題となるのが、各国固有の要件への対応だ。たとえば、特定の国だけで必要な項目がある場合、システムに都度作り込む必要も出てくるだろう。しかし、NIPPON EXPRESSでは、あくまでもFit to Standardでの導入を進めるため、パッケージの標準機能で対応できるようにしたかった。
そこで各国固有の要件にともなう入力欄の違いなどは、WalkMeで不要な入力欄をグレーアウトさせたり、必要な部分には入力を促したりとDAPならではの機能性で解決を図っている。パッケージアプリケーションで足りない機能を疎結合の外部機能として作り込むのではなく、WalkMeのガイドで“標準仕様のまま”各国要件に対応できるようにしているのだ。これにより開発コストを抑えながら、ガバナンスの強化も実現している。
また、同社はプロセスマイニングツールのCelonisを連携させることで、業務プロセスの改善点を把握し、その対応にもWalkMeを活用していく計画だ。さらに問い合わせ管理システムとして導入したServiceNowとも連携させ、保守業務の最適化、業務の自動化も目指す。こうしたアプリケーションの組み合わせにより、人材不足や転職リスクといった課題にも対応していく狙いだ。その上でWalkMeはさまざまなアプリケーションを横串につなぐ役割を果たしており、いつでも連携先のアプリケーションを変更できるなど、業務継続性のリスクヘッジにもつながると考えている。
プロジェクトの支援にあたった日立製作所の栗林伸行氏は、マルチベンダー、マルチカンパニーでの短納期導入の難しさを挙げつつ、コンセプトであったFit to Standardという考え方を徹底するところに難しさがあったと振り返る。また、WalkMeのようなSaaSベンダーも含めて「みんなで知恵を出し合ってやり切った」ことが成功につながったと話す。

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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