【中外製薬×ふくおかFG】AI時代のDX推進「実行・投資・文化醸成」の壁に、両社はどう立ち向かった?
トップダウンとボトムアップを組み合わせた、部門横断のDX推進施策を語り合う
DX推進において、アイデア創出から実行、スケール、そして組織変革まで、企業は必ず複数の「壁」に直面する。2025年10月21日に行われたエクサウィザーズ主催イベント「AI Innovators Forum 2025」では、中外製薬とふくおかフィナンシャルグループのDX推進リーダーが対談した。ともにデジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)企業である両社は、どのように壁を打破したのか。その実践的な方法論を語り合った。
中外製薬が進める「困りごと起点」のアイデア集め
DX推進の第一段階で多くの企業が苦戦する壁が、現場からアイデアを引き出し、それを実際の取り組みに発展させることだ。2020年から4年連続でDX銘柄に選定され、DX推進を継続的に取り組む企業が選ばれる「DXプラチナ企業2023-2025」にも選定された中外製薬では、この壁をどのように乗り越えたのだろうか。
同社は、2020年頃から段階的にアイデア創出の仕組みを構築してきたという。同社でデジタル戦略企画部 部長を務める金谷和充氏は、「『まずはやってみる』という文化を作るために、『Digital Innovation Lab(DIL)』という取り組みを進めている」と説明する。
このラボでは、デジタル部門が予算を持ち、グループ・個人を問わず業務課題を解決、新規ビジネスを創出するためのアイデアを提案できる。あえてROIなどは重視せず、そのアイデアが面白いかどうか、イノベーティブかどうかで評価し予算をつける方針をとることで、参加者のハードルを下げていることが特徴だ。
また、同ラボのもうひとつの特徴は「困りごと起点」のアプローチを採用している点である。このアプローチを採用したきっかけとして、同社がRPAソリューションを導入した際、それを用いて業務プロセスを改革する気運が高まったという。しかし、社員たちに「RPAで解決できる課題を挙げてください」と投げかけても、アイデアはなかなか集まらなかった。
そこで、質問の仕方を変え「業務で困っていることを挙げてください」と呼びかけたところ、多くの声が寄せられるようになったそうだ。こうした「困りごと起点」のアプローチは生成AI活用の領域にも採用されており、結果として900件を超えるアイデアが集まった。
「良い意味でのプレッシャーを」ふくおかFGが推進する施策
一方、2025年のDX銘柄企業に地方銀行グループとして唯一選定されたふくおかフィナンシャルグループでは、どのような策を講じているのだろうか。同社では、組織的なアイデア創出の仕組みを構築しているという。DX推進本部長の武重太郎氏は「各所管部に『AIXオフィサー』という形で担当をつけ、月に1回、担当者たちに世の中の動向や他社・他行の事例を提示する機会を設けている」と説明する。
また、毎週金曜日の午前中に「AI相談会」と呼ばれる壁打ち会を開催し、日常的な相談窓口も設置している。これらの取り組みは社内向けの「AIポータル」で可視化され、進捗状況を全社で共有する仕組みが整えられているとのことだ。
さらに、そこで共有された取り組みがきちんと実施されているかを確認すべく、社長以下の役員を集めて3ヵ月に1回「AIX協議会」が開催される。その際に各部門の取り組み状況が横並びで報告され、それぞれの部門が何をやっているのか可視化できる環境を整えている。
「日本人特有かもしれませんが、『隣の部署が何かに取り組んでいるのに、自分の部署はやっていない』という状況になると、プレッシャーを感じる人も多いと思います。当社の場合は、こういった環境を構築しているからこそ、自然とAI活用が進んでいるのではと思います」(武重氏)
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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